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変なお兄ちゃん
ー「こんなのいつ以来?」
「温泉旅行以来だな。親父もいたけど」
いつものようにサトルくんに抱かれながら湯につかるが、今日はタケオと向かい合っている。俺の至福の時間が、こいつのせいで一気に地獄のドン底のような悪夢に変わってしまった。
つーかこの兄弟、ホントにおかしいぞ。いったいなぜいい年した男同士で、家の風呂に一緒に入るんだ?いや、おかしいのはタケオだ。俺がいつものようにサトルくんに身体を洗ってもらってたら、突然こいつが乱入してきたんだ。見苦しいタケオの裸体にショックを受け、条件反射のように風呂場で泣きわめいてしまった。
「やっぱりタケオくんとお風呂はイヤなんだよ。」とサトルくんも抗議してくれたが、「抱っこしなきゃ平気だよ。」と平然と返し、自分の身体を洗ってさっさと湯船に浸かりやがったのだ。
いやだ……お母さんかサトルくんの残り湯ならいいけど、こいつが浸かった湯になんか入りたくない。お父さんはいつも最後だからいいけど、お父さんの後だってけっこう嫌だ。男は汚い。……サトルくんも男だけど。俺はいつも一番風呂なんだ。俺とサトルくんの成分が湯の中で混じり合うことに感動しながら、つるつるの肌に触れ、出もしない乳に吸い付き、心ゆくまでこの美少年を堪能する尊い時間なのだ。それをこの蛮人が……何だってこんな狂気を発して、ただでさえ愉しみの少ない俺の大事な時間をめちゃくちゃにしやがるんだ。
タケオと向き合うように膝の上に座らされていたが、俺は身体を精いっぱいねじってサトルくんの胸にほっぺたをつけ、断固として奴の裸体を視界に入れることを拒否した。
「見たくないんだね」
「コウくん、そんなに俺のこと嫌わなくても……」
「赤ちゃんって男の人ニガテらしいよ。お父さんも、コウちゃんにあんまり好かれてないってちょっとしょげてた」
「サトルも男だって気づいてねえのかな?」
「気づいてないのかも。すぐおっぱい吸いたがるし」
「いま吸うかな?」
「さあ……。タケオくん居たら吸わないと思う」
サトルくんはよくわかってる。タケオなんかより全然俺のことを理解している。「ノリオ」のことならタケオの専門分野だが、「コウキ」としてならサトルくんとお母さんが俺のエキスパートだ。
「……動かなくなっちゃった」
サトルくんにぴったりくっついたまま、俺はサナギのごとくタケオに背中を向け、じっと時が過ぎるのを待った。友達としてならタケオは好きだが、裸も見たくないし、身体にも触られたくないのだ。温泉旅行のような開放的な場ならまあいいだろう。だがここは家の風呂だし、広くたって大の男2人で使うのはおかしいし、サトルくんがタケオの乱入を許していることさえ俺には疑問である。もしふたりが兄と妹だったりしたら、まちがいなく家族会議案件だ。
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