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企画3課のイケメン
翌日の火曜日、千秋は不機嫌な顔で出社した。
別に二日酔いではない、プレゼンの付加価値というのが、まだ思いついていないのだ。
予想通り、朝から課長にネチネチクドクド責められた。
それが出社した9時から昼休みの12時まで続いたのだった。
「よくもまあ、あれだけ話すネタがあるわね」
会社近くのファミレスで、ランチを摂りながら、2人は生気を回復させていた。
「ほぼ同じ内容の繰り返しでしたけどね、結果が出ていない、やる気があるのか、辞めさせるぞ」
「あーもう、聞きたくない聞きたくない」
頭を振る千秋に、一色は笑って謝った。
会議をかねて千秋は一色と塚本をランチに誘ったのだが、塚本にはフラれてしまい、一色と食事中であった。
「私、塚本さんに嫌われているのかなぁ。配属以来、話したことないわよ」
「そんなことないですよ、彼女はただ無口なだけです」
「一色君は、どうやって会話を成立させてるの」
「彼女の仕種と表情で読みとってますね、あとは端末のモニター。口下手な彼女は文字入力の方が楽らしいから」
千秋はまじまじと、目の前の青年をみた。
背は高く細身である。肌の色は白く、髪は黒く短髪で、顔は切れ長の目が印象的な美形。
服のセンスも良く、ビジネススーツを格好良く着こなしている。それでいて物腰もやわらかく、女性に優しい。
「一色君みたいなのを、イケメンていうのね」
「なんですか急に」
「ふっと思っただけ。それよりもプレゼンよ、何か思いつかない? 」
「申し訳ないですけど無いですね。逆に僕も訊いていいですか」
「なにを? 」
「総合商社のうちが、取引先の森友財団グループに輸入品を売るのは分かります。それが同じ商社の郡原物産とコンペなのも分かります。ですが、こういうのは本来、営業部の仕事ではないですか。それがなんで企画3課にまわってきたんでしょう」
「う~ん、なんでだろうね。しかも課長は、配属されて半年くらいの私に丸投げして、助けてくれないしねぇ」
千秋の返事の物言いから、理由を知っていてとぼけているなと、一色は読みとった。
「ただいま戻りました」
「遅かったな、佐野くんは? 」
「仕入れ先に行ってみます、と言って出掛けました。直帰するそうです」
「ふん、で、なにか言ってたか」
「いえ、まだ何も思いついてないですね」
「そうか、これからも逐一報告するように、クビになりたくなかったらな」
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