僕の使命

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僕の使命

 五百坪を超える土地に建てられたクラシカルな洋館は、四季折々の花に囲まれた美しい佇まいだった。僕はこの都内の一等地で、とても豊かな幼少時代を過ごした。それと言うのも先代からの事業を引き継いだ裕福な家に生まれたお陰だった。  洋館の中庭でのティーパーティー。美しい母はいつも朗らかに少女のように笑っていた。小さな弟は、真っ白なベビーカーの中で無邪気な声をあげていた。  甘い砂糖菓子のような思い出の詰まった中庭は、今は誰も手入れする人もおらず、すっかり変わり果てたものになっていた。  目の前の世界は、何もかも荒廃してしまった。今や僕の生まれ育った冬郷家は、戦前から築き上げた地位も屋敷も風前の灯火となるほど、落ちぶれていた。  僕が大学四年生の時、交通事故で両親が一度に亡くなり、人生の転機が訪れた。悲しみに暮れる間もなく、突然明るみに出たのは、事業の多大な借金。会社は既に大きく傾いていた。  学生の身分で跡を継ぎ、なんとか存続しようと頑張ったが、気付いた時には、両親の残してくれた保険金や財産をほとんど使い果たしてしまった。  その直後、親戚からも見放された。地位も財産も失った我が家とは、深く関わらない方がいいという判断だろう。  結局僕に残されたのは、借金の抵当に半分入ったこの洋館と十歳年下の病弱な弟だけだった。  祖父の代から受け継がれ、母が愛した白薔薇の庭を持つ洋館と、残された唯一の家族である弟の存在。どちらも何物にも代えられない大切なものだ。  僕の使命は、この二つの宝物を守り抜くこと。
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