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おとぎ話の結末 1
おとぎ話の結末を話そうか。
洋館の二階にあるアーチを描く出窓から、僕は白薔薇の咲き誇る中庭を見下ろしていた。白薔薇の花が夜空から降り注ぐ月光に照らされて、静寂の中に清々しい空気を生み出していた。
あの日から森宮さんと僕は、お付き合いを始めた。
付き合うといっても、僕はそういう方面に疎く、始終リードしてもらう日々だ。
この洋館は森宮さんの口利きで、ホテル直営のレストランとして貸し出せるようになり、安定した収入を得るようになっていた。
そのお陰で借金もきちんと返せているし、雪也の治療費も出せるようになったのが有り難い。金銭的にも余裕が生まれ、この冬に、雪也は手術を受けられることになった。
これで雪也は大人になれる。
何度考えても信じられない結末だ。
身を売ることも死をも覚悟したというのに……
僕は何も捨てずに愛を手に入れてしまったのだから。
「柊一、何を考えている? 」
「あっ……森宮さん」
「いつまでも堅苦しいな。そろそろ名前で、そうだな……海里と呼んでくれ」
「……海里さん」
「そう、いい子だ」
「あっ」
顎を掬われ、口づけられた。
「んっ……」
しいていえば彼が色恋に慣れているのが少し癪だったが、今はもう僕だけを見てくれている。
「舌を出して……ほら」
「こっ、こうですか」
「そうだ」
おそるおそる口を開けば、海里さんの舌の侵入を許し、口腔内を思いっきり懐柔されてしまう。そのまま彼の手が、とうとう僕の襟元のボタンを外しだした。
「そろそろ、いいか。 かなり辛抱強く慣らしたつもりだよ」
彼は見かけの派手さとは裏腹に慎重だった。男性に抱かれるのが初めての僕を第一に考え、暫くは口づけだけで、決して無理はしなかった。
ここまでは……
だがきっと、この先は歯止めが効かなくなるだろう。
しかし、もう、それでいい。
僕はそれほどまでに、彼を信頼し愛していた。
「いいね。もう我慢できない。途中でやめてあげることは出来ない。それでもいいか」
緊張のあまり上手く声が出せず、小さく頷くとベッドにドサッと押し倒された。
月光が足元まで忍び寄って来る。
僕は恥ずかしくて、暗闇へと丸まっていく。
縮こまる僕に海里さんが覆い被さって来た。
額、鼻筋、唇、耳たぶへと順番に沢山の口づけをしてくれた。
それでも緊張して震える手は絡められ、ギュッとシーツに押し付けられた。
「あ……雪也が隣室にいるのに」
「大丈夫。もう、ぐっすり眠っているよ。さっき見たら幸せそうな寝顔だった。俺たちが結ばれるのを、彼も喜んでいるよ」
「ですが……」
「さぁ、もう委ねて。気持ち良くさせてあげる」
気が付けばシャツの前は大きくはだけ、胸が丸見えになっていた。
「最初は、ここから」
トンッと指で押されたのは、ついていることすら意識していなかった乳首。
「え……」
指先で摘ままれて驚いた。なんでそんな所を? 僕は女の子ではないから、そこを弄られてもと、戸惑っていると、突然海里さんが吸い付いてきた。音が出る程きつく吸い上げられて、腰が震えた。
「ん……海里さん、いやです……そんなところ……」
妙にムズムズとした変な気分になってくる。もう片方の乳首を指先で捏ねられたりするうちに、下半身に熱が籠もっていくのを感じた。合間合間には雨のようなキスが降って来る。
「柊一は初心だな。綺麗な顔をしているし優しいから、さぞかしモテただろうに……」
「そんなことありません……それどころでは、なかったです」
「そうなのか。それは嬉しいよ。よかった」
海里さんの手のひらが僕の脇腹を撫でると、擽ったく心地よい……ふわふわとした変な気持ちになってしまう。
「そうだ……いいね。そのままリラックスして……」
怖がる僕の髪を、手櫛で梳きながら囁いてくれる。
ズボンのベルトも外され下着ごと持って行かれると、剥き出しになった下半身には五月の風がさぁっと吹き抜けた。
「あっ窓が開いているみたいです。閉めないと……声が漏れてしまう」
「あぁ部屋が少し蒸し暑くて開けたよ。大丈夫。この家の庭は広い」
「でも……」
「もう静かに」
更に着ていた白いシャツも完全に脱がされた。これで僕は生まれたままの姿だ。思わず両手で股間を隠すが、優しく退かされてしまう。じっと海里さんが僕の躰を見つめるので、居たたまれない。このまま消え入りたい気持ちになる。本当に僕は情事に慣れていない。
「よかった。綺麗なままで……ずっといつ君が身売りしてしまうかと冷や冷やしていた。ましてあのパーティーに現れた時は、ひっくり返るほど驚いた」
「あ……もう言わないで。あの時のことは」
「あのパーティーで俺は二度目の一目惚れをしたよ。今度は時間をかけずにすぐに手に入れようと誓った瞬間だ」
「え……あっ……んんっ……」
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