謎の招待状

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謎の招待状

 僕は大学をなんとか卒業し父親の事業に幕を下ろした後は、慣れない出版社で必死に駆け出しの記者をしていた。  ようやく二年目を迎えたある日、仕事場の机に一通の招待状が置かれていた。  落ちぶれた僕を、パーティーに招待?  両親が生きていた頃は社交界と縁もあったが、どうして今更、このような誘いが舞い込んだのか。怪訝に思いながら封を切ると、会場は日比谷にある有名なホテルで、主催者は名のある医療機関だった。  怪しいものではないのか。  それにしても、どこで僕を知って、こんなものを送りつけたのか。 ***   「兄さま、お帰りなさい」  コンコンとくぐもった咳をしながら僕の部屋に入ってきたのは、弟の雪也(ゆきや)。  まだ十四歳の幼い弟は、虚弱な体質のせいで学校にろくに行けず、家で過ごすことの多い不憫な境遇だった。 「雪也。今日はとても顔色が悪いね。具合が良くないようだ。もう早く寝なさい」 「はい……でも、それは何ですか」  どうやら会社から持ち帰った封蝋が施された封筒を、目聡く見つけたようだ。 「これ? あぁ、パーティーの招待状だよ」 「いいですね。僕もいつかそんな場所に行ってみたいです」 「大人になったら連れて行ってあげよう。だからしっかり治療しないと」 「はぁい」  治療といっても、今は病院代もろくに払えない状態だ。すでに使用人も手放し、弟の世話をする人もいない。  学校に満足に通えていないせいか、弟は年の割に幼いまま成長している。その天真爛漫なあどけない姿は、僕が守る一番優先順位の高いものだ。絶対に守ってやりたい。  得体の知れないパーティーだが、思い切って行ってみよう。  もしかしたら医療団体というからには医師の知り合いが出来るかもしれない それが何かの縁に繋がれば……  とにかくこのまま放置していたら、雪也は大きくなる前に、きっとこの世から去ってしまう。だからこそ、今の僕に出来ることをしていくしかない。  悪い予感ばかり募るが多少の犠牲は覚悟で、見知らぬパーティーに赴く決心をした。
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