【2】

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「………お、目が覚めたか?」  どのぐらいの時間が経ったのか分からないが、何かを煮込んでいるような匂いで私は目が覚めた。  藁のような草を敷いたベッドで身を起こすと、お腹がくぅぅ~っと鳴ってしまった。ちょっと恥ずかしい。  声の主を見ると、皺の深い、70前後のこれもまた鎧をつけているかのような素晴らしい褐色の肉体美を誇るジー様が、柔らかな視線で私を見ていた。  ふと美香ちゃんはどうしたっ、と慌てて周囲を見回すと、深皿に入ったスープのようなものを胡座をかいてガツガツと貪っていた。その上お代わりまで要求している。  見た目の可愛さが台無しである。社内で美香ちゃん狙いの男は結構居たが、これを見たらドン引きしそうだ。  そういや、美香ちゃんは以前から体形が細いクセににやたらと食べていた。  燃費が悪いんですよねぇ、と言っていたけど、半日以上食べてないだけであの飢餓状態だ。ジャングルで1日2日食べられなかったら発狂していたかも知れない。 「あの、ここは………?」  アフリカ系にも見えないが、さりとて日本人にも間違っても見えないジー様に尋ねた。しかし言葉が通じるのが不思議だ。 「ん?ここかの?ここはな、ハバラっちゅう村だ。お嬢ちゃん達がいたジャングルの南寄りにある。  ちなみにあの豪快に飯を食ってるお嬢ちゃんから聞かれたが、この周囲には他に村はない。  いや、ワシらの足で一週間程度歩けばもう少し大きな村もあるが、お嬢ちゃん達だと二週間はかかるかのう」  いやあんなジャングル二週間とか無理無理無理。死ぬから絶対。  そして、1つ間違っていた知識を改めた。男性ばかりかと思ってたが女性もいたのだ。  かなり老齢だったが、おっぱいがあったので気づいた。  顔だけだとシワだらけで、女性か男性か正直分からなかった。  バー様は、ふんだんに肉と野菜が盛られたスープ、瓢箪を割ったような器に水が入っている盆を運んできてくれた。  ごくりと唾を飲んだ。  女性も腰布一枚か。うーん、いや、裸族よりはいいんだけど、個人的にはなかなか目のやり場に困るんですけども、まぁこの村のデフォルトなら仕方ない。  ありがたくスープを頂く。  竹を削ったようなスプーンで一口すする。  おお!味付けは塩味だけだが、肉と野菜の出汁が出ていて美味しい!! 「とっても美味しいです!」  私も美香ちゃんを責められない位勢いよく食べ始める。 「そら良かった。たんと食え」  しわしわと笑うジー様は善良そのものに見えたが、次の一言で思わずスプーンを落としてしまった。 「お嬢ちゃん達は神から届いた花嫁じゃからな。はよ元気になって貰わんと」 「………はい?」 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇  一先ず食事と少し果実の香りがする美味しい水を沢山飲ませて貰ってから、私と美香ちゃんは詳しく話を聞かせてもらう事にした。  この村の女性がいないと勘違いしていた私の認識は、あながち間違いでもなく、やはり殆どいないようだった。居てもさっきのようなかなり高齢の女性のみ。  二十年以上前に、流行り病があって、何故か若い女性ばかりが命を落とすという事があったそうだ。 「いや、それまでもな、かなり女の子の赤ん坊も生まれなくなってきてたんで、危機感を募らせておったんだが、その病………子を孕むとこに悪いものが出来る病でな、それで一気に女ばかりがやられてしもうた」 「………それはそれは………」  子宮ガンのようなものだろうか。  でもあれ別に移る病気じゃないしな。  でも確かにこんなところでガンになったら特効薬もないし厳しいだろう。  500人前後いた村の人間もそれで一気に300人ほどに減り、ここ二十年で更に100人ほどが老衰やら狩りのケガなど、これはごく普通の死因で亡くなっており、現在老齢の女性数名を含めた200人前後のほぼ男集団の暮らしとなっているそうだ。  先程の女性は村長であるジー様の奥様らしい。 「このままだと子供も増えないし、ワシらの村が無くなるのも時間の問題なのじゃ」  いや、ご事情は分かるんですけどね。  大変お気の毒だとも思うんですが。 「村長さん、でもそれは私たちに関係ないんじゃないかなー」  スープを三杯も食べた上に、貰ったバナナまでモグモグしているのにかなり強気の発言をしている美香ちゃんだが、言っている事は真っ当に思える。  要は、『それはそれ、これはこれ』である。 「いや、別に無理矢理どうこうと言うのはないぞ?ただ、お嬢ちゃん達だって若いんだし、結婚だとて可能性が全くない訳ではなかろう?  だから、せめてうちの村の男たちも、その結婚相手になる可能性の男の一人に含めて欲しいと言うだけじゃよ。  うちの村の奴等は、大概が若い女性そのものを見たのが初めて、九割以上が童貞と言うかわいそうな子たちでな、言うては何だが、顔も男前が多いし、浮気など考えもせんような真面目なのばかりじゃぞ?  狩りも上手いし、食い物に不自由はさせん」  私は美香ちゃんにグイッと腕を引っ張られた。小声囁く。 (千尋せんぱい………どう思います?) (一途で純情で稼ぎのいい童貞のイケメンなんて絶滅危惧種が、こんなジャングルにゴロゴロしてると思ってるの美香ちゃん) (…ですよね……今のところ近いところではジーちゃんバーちゃんしか見てませんしね。  でもご飯には困らないですよね、一先ずは) (………そうね。暫くお世話になるという形で居候しながらこの先に含みを持たせる、ついでに私たちのこれからも考えると言う事でどうかしら)   (恩を着せつつタダ飯に与って、おぅおぅそんなイケメンいるなら見せてみんかい検討したるがな、結婚かてあるかも知れへんで?………と言う意訳で間違いないでしょうか千尋せんぱい) (流石は総務で私の右腕志望だった美香ちゃんだわ。私のバナナ食べる?) (もちろん頂きます。それじゃ、ファジー滞在ルートで)  さっとこれだけの事を早口でやり取りすると、美香ちゃんは村長さんに笑顔で話し掛けた。 「村長さんがそこまで仰るなら、助けて頂いた恩義もありますし暫く体力回復しつつ、町に帰るまでこちらの村の男性に会わせて頂くのも考えたいんですがー」    ちなみに町から旅行に出て迷子になったという設定にしたが、変わった格好をしていることも納得の材料になったようで、全く疑う様子もない。 「おおっ!そうか!!」  嬉しそうに顔を綻ばせる村長に、美香ちゃんは「でも」と続けた。 「私と千尋せん、……千尋さんが住める家を一時的に貸して戴けますか?ついでに滞在中の水と食料もすみませんがお願いしたいのですが」 「そんなもん空いてる家なんぞ幾らでもある。すぐに用意させるわい。  いやぁ、村の男たちも喜ぶじゃろうて!  一生童貞・独身確定だったのが、ほんの少しとは言え結婚出来る可能性が出たんじゃものなぁ………」  目頭を押さえる村長さんに、若干の申し訳なさを感じつつも、可能性はあるよね可能性は、と心で言い訳をする。  ぶっちゃけ、この世界に来たショックの方が大きくて結婚とかそんな事を考えるゆとりはないんです、とは言えないしなあ。  私たちは浮かれた村長に、新しい家にすぐ案内すると言われ、村長の家の外に出た。  何故か家の周りに人だかりが出来ており、初めて間近で村長以外の男性をはっきり見ることになった。  そして、村長が言っていた事は1つ正しい、と美香ちゃんと顔を見合わせた。  本当に、ビックリするほどイケメン達が、筋肉美を晒して腰布一つで私たちをうっとりした視線で眺めていた。 (千尋せんぱい………イケメン、筋肉と2カウント入りました自分) (早いわよちょっと!もう少し冷静に………)  美香ちゃんが通り道を開けてくれた20歳前後のイケメンに「ありがとう」と笑いかけると、そのイケメンは顔を真っ赤にしてプルプル首を振った。 (イケメン、筋肉、ピュア入りましたぁぁぁ! ありがとうございます村長様!  桃源郷!桃源郷!ハイカモンカモンカモンカモンヘイヘイ!!) (落ち着いて美香ちゃん!!どっかのホストクラブみたくなってるから!取りあえず二人っきりでよく相談しましょ) (す、すみません千尋せんぱい、心の扉が全開になってしまいました。そうですね、よく相談しましょう)  私たちは、二十畳はありそうな屋根のある、仕切りのついたワンルームといった感じの家に連れてこられ、また明日と帰って行く村長を見送りながら、これからの事を話し合うのだった。
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