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【6】
「………千尋せんぱーい、本当にいいんですかぁ?」
「うん。もういいの」
私たちは、ジャングルを抜けた原っぱに来ていた。
美香ちゃんは今日のダーリンであるベルンさんと。ベルンさんの腕には生まれたばかりの娘カナちゃん。
そして私はナーガさんと。
今日はとてもいい天気だ。
◇ ◇ ◇
私が夜這いを強行してから一年が経っていた。
私はそのままナーガさんの家で暮らす事になり、村長さんが祝いの宴を開いてくれた。
「せめてどちらか一人だけでも残ってくれたらと願っておったが、まさか二人とも残ってくれるとは!本当に有り難い。
しかし、本当に親兄弟には知らせんでいいのか?」
「「ええ」」
知らせようにも手段がないし。
「それに、ミカは村の若者10人と結婚してくれると言うし、神はわしらを見捨ててなかったのぉ」
ドブロクのような白い酒、ピンガを飲みながら涙ぐむ村長の肩をバシバシ叩きながら、美香ちゃんもピンガを煽るように飲み始めた。結構強いお酒なのに美香ちゃんは強いのだ。マグカップ三杯位飲んでも顔色1つ変わらない。
「流石に10人はキツいかなーと思ったけど、まぁなんとか頑張るからさ村長さん!だから泣かないでよ。
女の子も男の子もばんばん生んでさ、この村がずっと続くように祈ろうよ」
本当は20人以上の希望者がいたのだが、
「一ヶ月の間に生理中以外常に男に抱かれてるみたいなもんでしょう?身体壊しそうだからイヤですよー健康大事~」
とくじ引きで公平に決めたらしい。
◎絶対に他の旦那とケンカをしない事
◎生まれた子供はみんなが自分の子と思って分け隔てなく育てること
◎妻に一人きりの時間も与えること
と言うのを条件に出したらしい。
「だけど、思ったより少なかったわね。私美香ちゃんはもっと希望者が山になってると思ったわ」
だって年配者を抜いて年頃の独り者だけでも100人からいるのだ。
「独占欲強い人もいますからねー。
それに他人事みたいにしてますけど、千尋せんぱいへの希望者30人以上いましたからね?」
「えええ?やだモテてたの私?」
私は余りの意外さに驚いた。
「そうですよぅ、私みたい良くも悪くも開けっ広げな女より、千尋せんぱいみたいな慎ましやかな大和撫子な感じの女性の方がモテるに決まってるじゃないですか~」
「ナーガさん、私モテてたんですって。そうなの?」
ナーガさんは少し間を置いてコクリと頷いた。
「だから本当は千尋せんぱいも私の役目をしてもいいぐらいですよ。村の平和のためにどうっすか?一本か二本ぐらい」
「どこの本数の話をしてるのよどこの!」
ナーガさんを見ると、ふるふる首を振って涙目で私の手をギュッと握りしめる。
「私はナーガさんだけがいいから無理よ」
そう美香ちゃんに返すと、目に見えてホッとしたようにナーガさんが笑った。
くっそー、何でそんな可愛いんだ。
「ナーガさん独占欲の塊じゃないですか全く。千尋せんぱい不幸にしたら許しませんからねナーガさん!」
美香ちゃんがびしっと指を差すと、ナーガさんは真顔でコクコク頷いた。
結婚して(といっても一緒に暮らすだけで書類も何もないのだが)ナーガさんの家に住むようになった私だが、過保護と言うか、大概の事はナーガさんがやってくれる。
飲料用の水くみや風呂を沸かす事、食事や掃除、洗濯まで全部やってしまうのだ。
一人暮らしが長い男性だからだろうか、とても手際もよく、余りに極楽過ぎて自分がダメになる。
私にも妻らしい事をさせてくれとお願いして、食事と掃除洗濯の権利はもぎ取った。
朝、ナンのようなパンを焼き、炒めた肉や野菜を刻んで入れたものを挟む、揚げてないピロシキみたいなものを作って、それをお弁当にしてナーガさんが出ていく。
そして私は掃除をして、シーツや服………まあ腰布とワンピースぐらいだけど………をし、美香ちゃんとお喋りしたり、村長さんの奥さんから秘伝のレシピを教えてもらったりするのどかな生活だ。
美香ちゃんは今も同じ家で生活している。お風呂は旦那さんの一人に目隠しの柵を作って貰い、旦那に薪を放り込んで貰って前より安心して入れるようになっているそうだ。
「………いやぁ最初は、やっふぅ純粋培養イケメン純情童貞ゴチになります!とか全く思ってなかったと言えば嘘になりますよ。
でもね………あの人たち、疲れを知らないって言うか、夜通ししたがるの何とかなりませんかねぇ」
「………それで朝、ろくに眠りもせずに仕事に行くのよね。なんか元気いっぱいな艶々した顔して」
「そうなんですよ!!全くあいつら加減を知らないと言うか、まあ童貞だったからしょうがないんでしょうけどね」
「でも………本当に嬉しそうでねぇ………」
「分かります………つい許しちゃうんですよねぇ………」
そんなノロケだか愚痴だか分からない事を言っているうちに、美香ちゃんは妊娠した。
安定期に入るまではエッチは禁止!と旦那さん達に言い渡し、楽しいお一人様生活をエンジョイしてるらしい。
私はまだ妊娠の兆候はない。
あれだけ月のモノがある時以外は毎日のようにしているのに、なかなかナーガさんに家族を増やしてあげることが出来ない事を申し訳なく思う。
一度そんなことをいって謝ったら、首を振って、私の胸に顔をすりすりとして抱き締めてきた。
私がいることで既に家族が出来ていると言いたいらしい。
ナーガさんとは、目を見ると大体言いたい事が分かるようになってきた。
手話ではないが、風呂やご飯など簡単なボディランゲージも二人の中で出来てきたので、別に喋れなくても困ることはない。
声が聞けたらもっと良かったけど、それは贅沢と言うものだろう。
そして、日々を過ごすうちに、ナーガさんがどうしても意識してしまうソレが、彼を悩ませているのも気づいてしまった。
私の洋服である。
もう私は元の世界に戻るつもりもないし、この世界で骨を埋める決意はしているのだが、洋服は私が日本で生きて来た証みたいなものなので、どうしても処分が出来なかった。
でも、たまに虫など食ってないか調べる為に麻袋から出してたりすると、少し悲しそうな顔をする。
そして、袋に戻すのを待って甘えるように抱きついて来たり、ベッドに連れて行くのだ。
きっと突然現れたように、突然町に帰ると言い出されるのが怖いんだろうと思う。
それが分かっていても、なかなか踏ん切りがつかなかった私は、常備薬を貰いに薬師のおじさんのところへ行き、定期検診をして貰って、ある決意を固めた。
◇ ◇ ◇
「いやぁ、石油系の服はよく燃えるわねぇ」
「本当ですねぇ」
原っぱで私たちが燃やしていたのは、この世界に来た時の服だった。
美香ちゃんも、服を燃やすのに賛成してくれた。自分も処分すると言う。
もう戻らないから安心して、というナーガさんへの私からのメッセージでもある。
「ところで、いつ話すんですか妊娠の事」
小声で美香ちゃんが囁いた。
「今日、戻ったらかな」
先日の検診で発覚し、お腹にいる子供の事を思ったら、これも私の生きた証だなー、などとしみじみとしてしまい、洋服はもういいや、と今までの執着がウソのように消えてしまったのだ。
「思えば遠くへ来たもんですよねぇ」
「本当にねぇ」
「来た当初は、ナイス筋肉な雄っぱいのイケメンがてんこ盛りで、どこの桃源郷かと思いましたけど………」
「人間、慣れって怖いわよねー。もう村でどんなイケメンが肉体美と美乳晒して歩いてようが、何とも思わないもんねー」
「でも私はやっぱり、千尋せんぱいと一緒に来られたのが一番ですよ」
「会社の同僚ってより長い付き合いになりそうよね私たち。私も美香ちゃんに元気貰ってるわ」
「私もですよ。もう千尋せんぱい居ないと生きていけませんから。ここは一つやっぱり私とも結婚しますか」
「しないっつうの。もう充分家族じゃない私たちは」
「ま、そうっすね。じゃ、帰りますかそろそろ私たちの村に」
燃え尽きた服は消し炭のように黒く固まっており、服だった痕跡すらも残っていない。
私は火が消えてるのを確認して立ち上がると、
「そうだね。帰ろうか」
少し離れたところで待っていたナーガさんに「お待たせ」と言って抱きつくと、首を振って私の頭を撫でながら優しく抱き締めた。
美香ちゃんはベルンさんからカナちゃんを受け取り、あやしながらおっぱいをあげていた。
今の美香ちゃんの授乳しやすいツーピースも私が作った。
今度は私の分も作らなければならない。
そして、家に戻ったらナーガさんへ打ち明けなければ。
この人は感極まるとすぐ泣いてしまうので、二人の時にしか言えない。
全くいいトシをして困った人であるが、私の最愛の旦那様である。
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