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「ほらほら千尋せんぱーい、今日も貢ぎ物沢山届きましたよ~ぅ♪  うーんこのネックレス何かなー象牙かな角かなー?  割とデザイン細かいですよねぇ」 「………あ、ああそうなの」  私は顔をひきつらせながら後輩の美香ちゃんに笑みを返した。  何でこんなことになったんだろうか。  未だに諦め悪く考えていた。  私たちは、ほんの一週間ほど前まで日本のそこそこ大手の文具会社のOLをしていた筈なのだ。  なのに何故か今いるのは、見渡す限りのジャングルが広がる中の集落にある掘っ立て小屋に毛が生えたような家なのである。  日本にいた時の最後の記憶は、後輩の美香ちゃんが、 「千尋せんぱーい、三十路おめです~飲みに行きましょう飲みに!」  と言い出した日の夜である。  23歳の入社して間もない美香ちゃんは、茶髪のボブヘアのオメメぱっちり二重のとても可愛い子である。  ただ長く働いてると言うだけなのに、疎ましがられるお局様的な存在へとジョブチェンジしつつあった私は、この辺りの世代とは大体スルーされるか陰口を叩かれる関係性であると思うのだが、何故か研修の時からやたら懐かれた。   「私、一人っ子だから、千尋せんぱいみたいなお姉さん欲しかったんですよ~」  と歓迎会の時からアドレスや電話交換まで求められ、私も仕事に前向きに取り組む美香ちゃんに好感を持っていたので、快く応じて、休みの日に買い物に行ったり、仕事帰りに飲みに行ったりなどのお付き合いをしていた。  特に、若手のジョニーズ系のアイドルが好きという所も仲良くなる下地になった気がする。 「なんかこう、少年から男として完成する前の儚い感じがいいんですよねぇ。いや、だからって別にどうこうしたい訳じゃないんですけど。単に愛でたいだけと言うか」 「そうなのよ!美香ちゃんの若さでそのワビサビが分かるなんて最高!」 「ま、手が伸ばせるところにあったらまた違うかも知れないですけどね(笑)」 「………ええ、そこはちょっと否定できないわ(笑)」  などと飲みながら下らない話をするのも日々の彩りの1つになっていたので、30を迎えて恋人とのデートの予定もないお一人様の私は、喜んでOKした。  若くて可愛い子は男女ともに眺めていて微笑ましいし。  そして、金曜と言うこともあり、二人で二次会まで行って終電を逃した。  お互い一人暮らしで最寄り駅から同方向に2つ3つしか離れてなかったので、帰りはタクシーで相乗りしようとなった。  やって来たタクシーに乗り込んだはいいのだが、また荒っぽい運転をする運転手で内心冷や冷やしていたら、案の定赤になりかけの交差点に突っ込んでいき、左手から来たトラックが物凄いクラクションを鳴らしまくって、鳴らしまくって、………で目覚めたらジャングルだったのだ。 「千尋せんぱい、もう諦めましょうよ。  多分私たちポックリ逝っちゃったか、逝きそうになってこの世界に来ちゃったんですって」  目覚めた当初は私とおいおい泣いていた美香ちゃんは、二時間ほどグズグス言わせていた鼻をすすり、 「よししゃぁないっ!千尋せんぱい、とりあえず歩きましょう」  と思ったより元気な様子で立ち上がった。フレヤースカートの汚れを払い、私を立たせる。 「美香ちゃん………あなた対応力ありすぎだわ」 「こんなジャングルで泣いててもどうにもならんじゃないっすか。変な虫とか食虫花だけならいいけど、猛獣とか出てきたら一発でアウトですよ。人里探さないと。  下手したら一生この世界に居なきゃいけないんですから、私は何がなんでもしぶとく生きる努力をしますよ。  千尋せんぱいも女は度胸って言うでしょう?ほら立った立った」 「………女は愛嬌よぅ~」  そう返すものの、美香ちゃんの言うことも尤もだ。  私も仕方なく立ち上がる。  多分この陽射しが射し込む様子だと朝から昼前といったところだが、今見えてる景色も夜になれば別物の恐ろしさだろうと思う。  特別な状況下には酷く動揺する年上の私なんかよりよほど潔い。 「美香ちゃん、………貴女が居てくれて良かったわ。  私なんかの誕生日祝ったせいで一緒に死んでしまったのだとすれば、本当に申し訳ないけど」 「何いってんですか、悪いのはあのクソタクシーでしょう。  全く客商売のくせにふざけた運転手めぇぇぇーーーっ!!  ………ああ、楽しみにしていた千尋せんぱいとのジョニーズドリームコンサートが見られなかったのが心残りっす………」 「ファンクラブお互いにダブルで入ってようやく取れたチケットだったのにね………」  暫く愚痴をこぼしながら歩くが、全く人家が見当たらない。 「喉渇いたぁぁぁ、水はー川はどこーー」  美香ちゃんは叫びながらも手に入れた木枝で足元にヘビやら変な生き物がいないか確かめている。 「お腹もすいたーーーっ」  私も叫ぶ。  いや、異世界転移とか、そんな小説は読んだことあるけど、大抵はヨーロッパとかまあ海外の普通の街とかが多かったような気がする。  別に南国フェチとかでもないし、海外にそもそも余り興味ない私が何でジャングルなんだろうか。  もう少しなんかイージーモードであっても良くないかい?  心の苛立ちを抑えながらもひたすら歩くこと二時間ほど(腕時計はしてたからね。時差とか分からないけど)。  そこそこの都会で精々ストレッチ位の運動しかしてなかった人間にはかなりの体力消耗である。 「………千尋せんぱい………もう私無理かも………」 「何言ってるのよ、美香ちゃんの若さで無理なら私なんかとうにあの世に行ってるわよ!ほらしっかりしなさいよ!」  とは言うものの、私も美香ちゃんもかなりヨレヨレである。  今回たまたま通勤時にスニーカーだったお陰で、何とか足の負担も控え目になっているが、ふくらはぎがマンドラゴラのように悲鳴を上げまくっている。 「………あ、………魚を焼いてる匂いがする………」  急に顔を上げフラフラと歩き出す美香ちゃんは、とりつかれた様なギラギラとした目をしていた。 「そんな匂いしないってば!美香ちゃん!美香ちゃんってばっ」  後を追う私は美香ちゃんがおかしくなってしまったのではないかと半泣きである。  しかし、美香ちゃんの嗅覚は犬並みなのか、暫く進むと私にも魚を焼く匂いが確かに感じられた。 「行くわよ美香ちゃん、こっちに民家あるわきっと」 「………はいぃぃ………」  二人で息を荒げながら進むこと更に30分。拓かれた場所に出た私たちは、念願の集落と人の姿を目撃する事が出来た。  しかし、見えたのは屈強な男性ばかり。  そして、上半身は裸、衣服は小さな腰布だけという、別の意味で身の危険を覚えそうな村だった。  しかし、自分たち以外の人に会えたという安心感は、私たちの疲れをどっと放出させた。  村のムキムキな男性達が、崩れ落ちる私たちの姿を見つけたようで、ワラワラとやって来るのを気が遠くなっていく中で感じた。 (人食い族とかでないといいなぁ………)  ブラックアウトする前の意識で私が思っていたのは、そんなろくでもない事であった。
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