忍れど

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「え。え、ええええ」 「確かに、まだ幼いかもしれませんが、月のものもあり、愛していただければ、子を宿すことも可能です・・子種をいただけないのでしょうか」 「それって、も、もしかして、せ・・」 「まぐわって、いただけないのですか」千枝さまは、真剣な顔で、しかし、どこか紅潮させて言った。まさに、彼女がそうすることが”役割だ”と自覚しているのだ。「高貴なお方、私は、あなたのことが好きになってしまったのです」 「マジすか~」 「親戚の杉村由紀も、神と交わって、優里という子を産みました」 「だからって」 「交わってくださいませ、女に、恥を欠かせないでくださいませ」  千枝さまは、いささか青ざめた顔で、その巫女の衣装を脱ごうとした。  ピンチ、ピンチ、ピ~ンチ、どうしたらいいのだ。この場合!  さすがに、この場合、忍もパニックになるらざるをえなかった。  わかるのは、さらに、何も知らないとはいえ、確かに、千枝さまが彼に本当に恋したことが、わかってしまったのだ。  冗談はヨシコさんだが、こればかりは、どうにもならない。  なんと、忍は、彼女にとって、ど・ストライクだったのだ。  彼女は彼女なりに、その幼い”女”としての自覚から、千枝さまは、忍に恋して、その子を産みたいと、本気で思ったのだ。  この場合、”よ~し、ラッキー!”と不埒な行為に及びたいのは、男だろうか、人間だろうか。  これは、あまりに、危ない状況というものではないか。 「ダメ、だめ、だめなんですよ、お母さん!!」 「え・・」白い浄衣に手をかけた千枝さまの手が止まった。「え・・」千枝さまが、忍を見た。 「僕は・・多分、今の千枝さまからは未来の世界からここにやってきた、あなたの息子さんです、名前は、四騎忍といいます」 「え・・え・・え~~~~~~!!!」その顔は、まさに彼女の、年相応の少女の顔だった。  だが、次の瞬間、本当に彼女の顔が変わった。  それは、言葉にならない・・  硬く、そして、冷たい表情。  怒りであり、絶望であり・・悲しみ。 がくん・・若い千枝さまの肩が落ちた。  なんだか、何十歳も一気に年をとってしまったように見えた。老成したというより、少女が少女を辞めてしまった・・そんな感じだ。 「・・まさか、そういうことなのか」  今まで、ぜんぜんわからなかったが、そういうことだったのだ。  千枝さまも、この聖域で、何も知らなかったとはいえ、自分の息子に本気で恋をして、そしてなにより、性交渉を求めてしまった。それが、どれほどの意味を持つのか。千枝さまほどの少女が、自分の迂闊さ、そして多情さを悔やんだとしても、何の不思議もないだろう。
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