忍れど

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 母親と交わり、禁忌の子供を宿させる。なんとも、脳みそがこむら返りを起こすような倒錯した感覚になる。それは、自分が、どうしようもない”大悪人”だからだ。  その”片手間”で忍は事業を起こした。大人の名義を借りて、警備会社を興した。天才の彼が起こした会社に間違いがあるはずもなく、時流に乗って、生き馬の目を抜く破竹の勢いで大発展。わずかの間に、日本の中堅企業となりあがった。  警備会社として名を上げ、大企業や公官庁の内部にもぐりこみ、その秘密を我が物にし、それをネタに脅迫し、忍の命令に従わせる。それを日本だけでなく、全ての世界の国に展開する。  すでに、その準備は着々と進んでいた。  繰り返すがそれくらいのことは忍にとっては”片手間”だったのである。 ”悪人は善人のフリが出来る”のであるよ。  マザコンという言葉もあるが、忍はもっと危険な・・エディプスコンプレックスであったのだろう。もともとは、幼児期の男子が、最初に接する”異性”である母親を父親から引き剥がし独占しようとするために、母にして恋人の位置を与える。  女の子の場合は、なんと言うのかははっきりしないが、幼児の発想”大きくなったら、お父さんのお嫁さんになるの”というのと、同じようなものであり、いずれ、自然にそこから離脱するのが人の種としての生き方であるのだが・・  四騎忍は、それに、”離陸”に失敗したようだ。その自覚は或る。  当然ながら、普通の同じ年の少年なら、そんなことを考えもしないだろうが、クリスタルチャイルドである天才の四騎忍は気づいてしまったのだ。  しかし、確かに千枝さまは類まれなる美女にして、芸術品のような体型を保ち、そして、無敵の薙刀使いなのだ。護身術の達人でもある。  トチ狂って抱きしめようとしても、次の瞬間には受身の取れない態勢で宙に舞うことになること受けあいだ。  忍も、それなりに体術を学んでいるのだが、それでも、昔と違い今の自分より頭分くらいは小さい千枝さまには、それでも勝てないという自信だけはある。もちろん、手加減なしで、だ。正直、いまだにどうして自分は今、宙に浮かんでいるかわからないままに、技をかけられているのだから、改善のしようがまったくないのである。  クリスタルチャイルドを自負する彼を負かす千枝さまとは、どんなべらぼうな存在か、ということなのだ。  とにかく、”千枝さまには、俺は、一生、かなわない”という確信が忍にはあった。端倪すべからざる・・いや、それ以上の存在だ。女神様といっても、足りないほどの天地の差のある、超存在。
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