忍れど

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 しかし、千枝さまは、けっして忍の前に立とうとはしない。忍をとおして、この世界に、何かをしたいのかもしれないが、しかし、それについて何かを千枝さまの口から聞いたことは無い。  唯一聞いた千枝さまから聞いたのは”忍さんの心のままに”ということなのだが・・  それをいえば、忍は、自分が何をしたくてこの世界に生まれてきたのか、まったく考えたことも無かった。  ただ、生きている。  中学時代に事業を大人名義で始めたのも”余技”であった。  日本語で言えば、ただ暇つぶしであった。 ”大丈夫、忍さんの魂は、それを知っています。それを開放すればいいだけのことですから”忍が思い切って千枝さまに問うたときの、それが回答だった。  だからこそ、”魂”なんてものがあるのならと、忍は本格的な修験道修行を始めた。  ほかにも、超能力開発セミナーみたいなものについても学校の先輩で超常現象研究家の東丈の本などで調べた結果、真言密教以前の修験道が一番しっくり来たからだ。  ただ、それはたとえば大峰山系の中を縦走するような本格的なものではなく、吉野あたりの”里山”を、山伏の白い装束をまとって散策するようなものだったのだが。  それで十分とする気持ちが、忍の中にあった。  修験道の開祖役の小角は、葛城山を根城にして、その超能力を開花させたと考えられていたからだ。  葛城山は、今はケーブルカーも通るが、所詮はトレッキング散策気分で登れる観光の里山である。  つまり、そうした肉体修行は必ずしも”魂の開花”に寄与しないのは明白だった。  役の小角が発揮したという妖術も、あるいはタネも仕掛けもある忍者の先祖の”技”だったのではないかと、考えている。確かに、日本で有名な忍法一族、伊賀、甲賀はこの大峰山系から登場しているではないか。  それは、それで面白い。  改めて考えるとそうした忍者組織も、忍の始めた警備会社のネタになるのではないだろうか。  何しろ忍は”悪人”なのだから、闇で動く”影の軍団”を持つのは、むしろ必須事項ではないか。アホウなヤクザとかに興味は無いが、もっと現実的に動く非合法集団は別だ。それこそ、忍者部隊とか、だ。  そんなことを考えながら忍の行動範囲は葛城山から、大峰山のふもと、天河村にも回り、そしてその”お山”を発見したのだった。  その”お山”の名前は”玉置山”という。
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