忍れど

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 ”魂置山”とか”霊置山”とも書くらしいが、どれが正解かは、今は定かではない。  修験者の中でも知る人ぞ知る、そういう”秘密の山”なのである。  縁が無ければ、いかに力のある行者であろうと、その”お山”に一歩たりとも足を踏み入れることが出来ない、とても不思議で強力な結界が張られているという。  その結界を張ったのは、役の小角その人らしい。 ”面白い”  ”悪人”の忍がそれに興味を持つのは、当然だろう。たとい”縁の無き悪人”であっても、役の小角よりもその修験術で勝れば、その結界を打ち破ることが出来るのが道理というものではないか。  それは、時空を越えた忍を小角との戦いだと、彼は感じたのだった。  しかし、妖術合戦とか言う以前に、忍は、気がついたらその場に立っていた。  正直、素人には葛城山と区別がつかない、何の変哲も無い里山だ・・外見上は。明らかに人の手で巨石を積んだであろう磐倉があるので、人工ピラミッドという説さえあったが、古代、たとえば縄文時代の神域だったということなのだろう。  ペンジュラムやロッドで感じれば、そこにかなりの精神エネルギーが集まる、いわゆるのパワースポットであることは間違いない。 「正直、何度も跳ね返されるのかと思ったのだけどね」  露骨なエネルギーの壁がそこにあるのではなく、ただ、なんとなくそこに足が向かなくなってしまう。意識の迷路。それが”結界”の正体だと今の忍ならわかる。  そこに一発でいけたとなると、修験者の間では逆に”お山に呼ばれた””選ばれた”ということになるようだ。  それは、修験者としてはとても光栄なことらしいが、正味、そんな殊勝な考え方は”悪人”の忍には無かった。むしろ、あまりのあっけなさに、物足りなさを感じたものだった。 「パワーストーン・・か」  磐倉の巨石表面をなでながら、忍は理解する。 「なるほど・・この岩に精神エネルギーを注ぎ込んで、残留思念を刻み込む。鉄を磁化するようなものか」  その”残留思念”を翻訳するほどの力量は、今の忍には無いが、それを感得出来れば、この巨石は、現代のコンピュータと同じような機能を持っていたに違いないとわかるのだった。 「それが、超古代の人間の生活の知恵だったってことか・・縄文時代・・いや、その前の氷河時代、ムー、アトランティスの時代まで遡れるのかな」  根拠は無いが、”そんな感じ”がするのだった。 「半分は偶然・・しかし、その昔、神武がこのあたりを通って大和盆地に入っていったというが、古事記では、ただ通ったように書かれているけど、この辺りを根城にしていた超古代ムーの子孫たちにしてみれば、自分たちの国を、首都を蹂躙されたような気分なのだろうな」  鎧袖一触とはいうものの・・残念な話で。 「もしかすると、小角は、自分が消滅したムー文明の正統な子孫だと自覚していたのかもしれないな」
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