忍れど

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 このパワーストーンをうまく使うことで、小角は人間離れした超能力を発揮できた。 「なるほど、そういうことか。それは、まさにムー時代の人間の知恵だったのか」  どうして、と聞かないでほしい。答えは、問うと同時に忍の脳裏にすべての答えが存在した。それは、最初から自分がそれを知っていたのに、忘れていたという感覚なのだ。  そういうことだ。  この紀伊半島の霊山だが、ムーのこの地域の都だと考えれば、人跡未踏のような深山にあるはずも無く。きっと天河村のあたりが、そういう人のすむ場所だったのだろう。 「そういうことか」  改めて、繰り返しになるが、まさにこの玉置山において修行した小角は人間離れした超能力を発揮できるようになったのだ。 「だから、僕も、ここに呼ばれた?・・・そして、千枝さまも、この玉置山の存在を知っていたのだね」それは、忍の確信だった。「千枝さまは、いずれ、ここに僕が来ることを、知っていた。いや、まさに千枝さまは、ここから、来た!」  そうだ、千枝さまは、ここで修行して、東京にやってきたのだ。そんなことは、考えたことも無かった。  なんだか、その昔、千枝さまの出生も東京だと根拠無く信じきっていたからだ。しかし、違う。この感じは、この山の”感じ”は、姿こそ見えないが、まさにここに千枝さまがいるという感覚なのだ。  なんという錯覚か、  しかし、それでも、そう感じられるのだから、ほかに言いようも無い。  里山の森の中、磐倉・・道があるような、無いような、道なき傾斜の中を、何か、ただ歩く。  犬も歩けば、棒に当たるという感覚でありながら、山を歩くというのは巨大な女性の乳房を歩くような意識的錯覚を起こすものらしい。  人知れず、しかし、どこかに導かれている確信。そして、それは・・半ば当然のように、洞穴に忍をいざなったのだった。  その岩の中の裂け目は・・明白に”女陰”を想起させた。それはどこか隠微であるとともに、しかし、淫らという以上に、”子宮”という器官への回帰を感じさせる。おそらく、ここを訪れた人間は大なり小なりこのような感覚になったに違いないと確信できる。  あの小角もまた、”胎内廻り”の気分になったに違いない。  だからといって、その洞穴に入ることをためらう忍ではなかった。それは、千枝さまの胎内に戻る、どこか隠微な感覚を忍に覚えさせた。  しかし、それだけだった。 「これは、シームレス?それとも・・」  もう数分歩いているはずなのに、その小さな洞穴の行き止まりに行き着くことは無かった。.
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