アイドル、はじめました!ーハナヨ、55歳ー

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「おい、俺のパンツ、ゴムが伸びてるぞ。」 夫は風呂上り、パンツ一丁でビールを飲みながらそう言った。 「あら、ごめんなさい。今日、新しいの買っておくわね。」 パンツねー、ものはユニクロがいいんだけど、高いからしまむらにしておこうかしら。そういえば、子供たちの夏用の下着類もかっておかなきゃ。ハナヨはそう思いながら、最後のお皿を拭き終え、ようやく夫がビールを飲んでいるダイニングテーブルに座り、お茶を飲んだ。  リビングでは、中三のユキコはタブレットで動画、タマコはスマホでなにやらゲームをしている。  「ちょっとあんたたち。明日の時間割とか宿題はやったの。」ハナヨは言う。 「やってるよー」と子供たち。  ハナヨは言ったことを少し後悔する。今日は日曜日で、もう8時だ。今更遅いが、こうやって遊んでいる子供たちを見ているとどうしても言いたくなる。 夫は夫で夕刊を読み、あえてハナヨたちの会話に入らない。  今日のハナヨは少しイライラしていた。そういえば、ここ最近顔がほてり、朝は手足のこわばりがある。50歳すぎても更年期症状も出ず、若いよねー50歳に見えないーと、10も年下のママ友から言われるのを真に受けていたから、まさか自分が更年期の症状が出るとは夢にも思ってなかった。  これはいわゆる更年期なのかしら。なんとも割り切れない気持ちが体中をうずまく。  はー、若いころはこんなときがくるなんて思ってなかった。本当に永遠に17歳だと思ってた。  とりあえず、気持ちは若くするのがいいわよね!若いといえば子供たち、流行りものチェックして、若者のトレンド取り入れて気持ちだけでも若作りしよーっと。 「ちょっとユキちゃん。何を見てるのかな。ママにも見せてごらん。」 ハナヨは「宿題はー!」なんて、ヒステリックに言ったことはすっかり忘れて、ユキコにすり寄る。  ユキコは「えー。」といいながら、仕方なくハナヨに画面を見せた。 そこには顔がアニメで体は実写の男の子たちが歌っていた。 「これはなに?なんでアニメ顔なの?」「かわいーでしょー。ユキはね、ぷく猫が好きなんだー」 もはや、人名ではない名前のタレントってことか。  「ぷははっ!」隣でタマコは笑い転げる。 「タマちゃん、なにがおかしいのかな。ママにもちょっと見せて。」 またまたハナヨはタマコのスマホの画面を覗き見ると、アニメゲームをしていたかと思うと、ツイッターを見る、など、アプリをさくさくと使いこなしているではないか。
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