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 体育館に残ったのは俺達だけ。それだけで十分心細い気がしてくる。  懐中電灯一つで暗い中を歩くのは、妙に感覚が研ぎ澄まされていく。けれど片手を握る手に力がこもっているから、しっかりしろと自分に言い聞かせる事ができた。 「記念碑って、あれか?」  グラウンドの端にあるそれは、創立百年を記念しての記念碑だった。 「あった、アレだ」  その記念碑の平らな部分に一枚残っているお札。風で飛ばないようになのか、石で重しがしてある。涼太がそれに手を伸ばした時、記念碑の裏からスッと白い手が伸びて涼太の手首に触れた。 「ひっ!!」 「うわぁ!」  記念碑の後ろから半分だけ見えるワンレンの女の目は瞳孔が開いていて、精気のない白い顔をしている。  手を触れられた涼太は青い顔で手を引っ込めて一目散に逃げようとする。そして俺はそれに手を引っ張られて従うしかない。 「ちょ! 待った!!」  そのまま近くの建物、旧校舎へと逃げ込もうとする涼太はもう回りが見えていないのか、辺りをキョロキョロして、開いている教室の一つに逃げ込んで蹲った。 「うぅぅ」 「大丈夫か?」  確かに驚いたけれど、あれって確かクラス委員だ。いつもは眼鏡で髪を結んでいるけれど、きっと変装していたんだ。今はコンタクトもあるんだし、あんな感じのもあるんだろう。  涼太は頭を抱えて蹲ったまま動けないでいる。俺は立ったまま、涼太に手を伸ばしていた。 「あれ、クラス委員の松野だって」  ブンブン首をふる。多分こいつ、もう動けないんだろう。 「ごめ……一馬、俺……腰抜けてる……」 「うん」 「情けなくて、ごめん」 「いいよ、苦手なの知ってるから」 「こんな……一馬に見せるなんて、嫌なのに」  顔を上げないまま、震えた声で言う涼太は可愛い。やっぱり、俺が守るんだ。涼太を…… 「今更だろ? 俺達、幼馴染みなんだから」 「……幼馴染みなんて、嫌だ」 「……え?」  ドキリと、嫌な感じに心臓が鳴る。幼馴染みは嫌なんて、それはどう言うこと? 嫌われた? それとも、幼馴染みじゃなければよかった? 「あの……」 「一馬の、一番になりたい……のに」 「え? あの、一番って、何の?」 「全部、の。一番になりたい」 「一番の友達……」 「違う! 俺は一馬の一番側にいる、一番好きな人になりた……!!」  顔を真っ赤にして俺を見上げた涼太が、そのまま固まって……倒れた。 「涼太? 涼太! どうした、涼太!!」 「きししっ、可愛いねぇ」 「のわぁぁ!!」  ふと後ろを見ると、見覚えのある人がいる。去年卒業したはずの先輩が、おどろおどろしいお化けの格好で立っていたのだ。 「なんで先輩いるっすか!」 「お化け役? 丁度帰省してたら声かかってさ。お化け役やったらジュースおごり」 「マジかよ……」  ってか、涼太どうすんだよ。俺じゃ運ぶのしんどいよ。そして聞かれてたのかよ!  急にカッと顔が火照った。友達じゃない好き。一番側にいたい好きは……恋愛の好きってこと?  先輩を睨むと、ちょっとだけ悪かったという顔をして涼太を担いでくれる。そうして俺と一緒に教室を出ると、あちこちでスタンバってた帰省中の先輩達が駆け寄ってきた。全員、お化けの格好で。 「……無駄に張り切りやがって」  これ、絶対に涼太無理だった。溜息をついた俺は責任もって先輩達に、涼太を部屋まで運ばせたのだった。
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