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 合宿最終日は午前中全部がテスト。午後からは復習をしつつテストの結果待ちだ。 「一馬はさすがだね」  テストに合格できないと宿題が更に増えるとあって気合を入れた俺は、見事に全部パスした。ついでに進学組の俺は希望校の合格基準も今の所クリアしているらしい。 「涼太はどうだった?」 「数学の宿題出された。みてよ、このテキストの厚さ」 「うげぇ……」  薄めの図鑑くらいは厚いテキストを見せられて、俺は唸った。中にはこれを数冊貰っている奴もいて、南無南無とお悔やみを申し上げるしかなかった。 「俺、数学は苦手なんだよな。でも受験じゃ必須になってくるし」  困り顔の涼太が肩を落とす。そんな彼を見て、俺はふと思った。夏休み、一緒に勉強するなら親も煩く言わない。またこうして話せるようになったなら、それを維持したいという気持ちもある。  それに、後半年くらいしかきっと一緒にいない。大学になって、就職して地元を出たらきっと、会うのは帰省した時や同窓会や誰かの結婚式くらいになってしまう。  その前にせめて、元の幼馴染みくらいの仲を取りもどしたかった。  声をかけよう。思った時、同じクラスの女子が涼太の肩を叩いた。 「涼太も宿題組?」 「彩花」 「ダッサ! でも、私も国語引っかかってさ」 「俺の事言えないだろ、それ」 「まーねー」  セミロングの、明るくて元気で密かに男子の人気も高い伊藤彩花は、砕けた様子で気さくに話している。それに返す涼太もとても自然だ。 『実はね、告白しようと思うんだ』  涼太の言葉が不意に鋭く胸を刺した気がした。 「一馬は流石だよね。ずるいぞ、この!」 「……出来が違うっての」 「うっわー、ムカつく」  んべー、と毒のない悪態をついた彼女はいつもと何ら変わらない。男にも女にもこんな感じで、気さくでちょっと雑で、分け隔てない態度。  そのはずなのに、俺は一人モヤモヤに潰れそうな気持ちでいる。  涼太は告白したいと言っていた。相手は、誰なんだろう。もしかして彩花なんだろうか。優しくて、一歩引くタイプの涼太とイケイケの彩花はバランスも悪くないと思う。わりと、爽やか系美男美女カップルだし。  思えば思う程ドロドロした気持ちがこみ上げて気持ち悪い。モヤモヤして、自分じゃないみたいで嫌だ。 「一馬?」 「ごめん、俺ちょっとトイレ」  心配そうな彩花を振り切るように俺は背を向けてトイレに向かった。そして個室に入って、嫌な自分を追い出そうと必死になっていた。  俺は、嫌なんだ。涼太を他の誰かに取られるのが。最初に拒絶するみたいにしたの、俺なのに……
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