第1章:武士の誇り

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第1章:武士の誇り

「せいっ、はっ。」 半兵衛が木刀を振る声が庄屋の屋敷中に 今朝も響き渡る。 屋敷には梅の花が美しく咲き誇り 春の訪れを告げている様だ。 半兵衛の掛け声を聞いた奉公人(ほうこうにん)弥助(やすけ)は そそくさと台所へ行き朝飯の支度を始めた。 この屋敷の奉公人は弥助一人だけである。 毎日の家事を一人でこなすのは 目が回る程に忙しい。 日々の疲れもあってか 小声で愚痴(ぐち)をこぼす事も多々ある。 「旦那様は朝から精が出なさる…。 百姓が剣術なんぞ稽古(けいこ)した所で 役に立たねぇってのに…。」 半兵衛は播磨国多可郡(はりまのくにたかぐん)で庄屋(地主)として 暮らしており自分の農地を数多くの小作人に 貸し付けている比較的裕福な百姓ではあるが この辺りの百姓達の間で半兵衛の 剣術熱心さは有名なのである。
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