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「ばぁさんは若気の至りとか言ってたが・・・息子を捨てたり、男に夢中になったり・・・[誤った]選択をしてただろ?トラヴィアータって名前の通り・・・[色々と道を踏み外してんだよ]、あのばぁさんは。」
「借金を取り立てに来てた連中達は[その意味を知ってて]・・・[皮肉を込めて、そう呼んでた]って事か?」
「[だろうな]。それに、オペラの主役であるトラヴィアータの役どころは・・・[高級娼婦]だ。だから、言ったろ?[あのばぁさんにはピッタリの名前]だってな。」
一旦、そこで話を区切った漣は新しく取り出したタバコを口に咥えて火をつけた。
「あぁ、それと・・・大和は手掛かりやヒントが少な過ぎるって言ってたがな?[あのばぁさんの息子は有名人]だ・・・[お前でも知ってる]と思うぞ?」
「[有名人]?誰だよ?」
漣と一緒にトラヴィアータの話を聞いていたハズなのだが・・・どうやら、大和はピンとこなかったようだ。
素直に降参を告げると、漣はゆっくりと口を開いた。
「[ロイド]だよ。一時、ニュースでも話題になってただろ?あのばぁさんは[誘拐犯]で[殺人犯]・・・そして、[食人鬼でもあるロイドの母親]なんだ。」
「・・・・・・マジか?!」
驚きのあまり、口に咥えようとしていた愛用のキセルが大和の手から滑り落ち、テーブルの上で軽快なリズムを奏でていく。
「[最近のニュースは個人情報保護法なんて言葉を無視するレベルで報道する]だろ?お前もばぁさんの話を聞いてて気付くと思ったんだが・・・やっぱり[頭の作りが違うと不便だな]。」
「いやいや、何年前のニュースだと思ってんだよ?つーかな?漣もばぁさんの息子が誰か分かってたんなら[教えてやりゃ、良かった]だろ?そんで、ついでのように[さりげなく俺をディスるの止めろ!!]」
憐れんだような視線を向けてくる漣に、大和は的確なツッコミを入れて抗議した。
「・・・[ばぁさんの息子は誘拐犯で殺人犯で食人鬼でもあり、今は警察に捕まって刑務所の中だって事をか?]」
「・・・・・・すまん。結構・・・つーか、かなり言い辛ぇわ、それ。」
「まぁ、あれだ。ばぁさんは[昔、自分達が住んでた場所に自然と向かって行った]んだ。遅かれ早かれ、直に[息子の消息を掴める]だろ。なんせ・・・[息子は有名人なんだから]な。」
漣は天井を見上げながら、タバコの煙と共に言葉をゆっくりと吐き出していく。
「それに、だ。仮にばぁさんが息子の消息を掴めたとしても・・・果たして[世話になるのはどっち]なんだろうな?流石にこればっかりは・・・[俺にも分かんねぇ]よ。」
「[また迷う]、だろうな・・・あのばぁさんは。」
ようやくキセルを口に咥えた大和は漣同様にゆっくりと煙を吐き出した。
天井に向かって立ち上る煙は店内を白く染め上げる。
その煙はまるで白い靄のように視界を塞ぎ・・・2人の表情と心境を複雑なものへと変えていく。
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