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ポン太
海を横に見ながら、堤防沿いを歩く。潮が引いて出来た浅瀬には、数人の大人に引率された子供達が潮干狩りに夢中になっていた。「あった!でかい!」なんていう、はしゃぐ声が響いてくる。
私も昔、地区の子供会の行事でやったなあ。幼なじみのモモとどっちがたくさん採れるか競争したっけ。
東北一で唯一の政令指定都市、仙台市にほど近い湊上地区。宮城県南部の沿岸に位置し、常に潮の香りの漂う漁業の盛んな地域だ。
休暇の度に、故郷の湊上地区には帰省していたから、別段久しぶりという訳では無い。前回帰ってきたのは年末年始だったから、たったの5ヵ月ぶりだ。
しかし、梅雨入り前の初夏の香り漂うこの時期に、この穏やかな町に滞在するのは就職してからは無かったと思う。
海を背にして路地に入る。築30年以上の古びた家屋ばかりが立ち並ぶ湊上地区の中では、珍しく新築の戸建が建っているエリアだ。
そこに彼は、いつものように佇んでいた。道路の端にに寝そべって、大地の全てが我がものであるかのような顔をして。
「ポン太」
期待通りそこに存在してくれて、嬉しくなって駆け寄る。私にポン太と呼ばれた茶トラの猫は、少しだけ顔を上げて半目で私を一瞥すると、再び顔を地面に押し付けた。
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