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その保護猫カフェは、商店街の大通り(と言っても、田舎の商店街だからたかが知れているスケールだが)から一本路地に入った、あまり目立たないところにあった。
以前に母になんとなく聞いたおぼろげな記憶を頼りに、少し迷いながらもたどり着いた。
母の話では、少なくとも数年前からこの保護猫カフェは存在していたらしい。「気がついた時にはもうあった気がするわ」なんて言っていたので、ちょっと不思議なイメージがある。
変な店じゃないかな……?
ちょっと不安だったけど、とにかく野良猫を保護して譲渡する目的の保護猫カフェなら、ポン太をどうにかしてくれるのではないかと思う。
店舗は、猫カフェとしては珍しく、黒い瓦の屋根に茶色の外壁という和の外観だ。入口の木製の引き戸からは、浴衣姿の女性でも飛び出してきそうな雰囲気がある。
そしてそのドアの近くには、黒い猫型の看板が立っていた。「保護猫茶房猫又」と、丸みを帯びた可愛らしい文字で書かれている。
保護猫茶房、か。和風にこだわっているから”カフェ”ではなくて”茶房”なのだろう。そういえば猫又って、怖い妖怪なんじゃなかったっけ。
保護猫カフェの名前として、それってどうなんだろ、とちょっと思う。
猫カフェには興味はあったけど、来店するのは生まれて初めてだ。
少し前までは余暇を楽しむ余裕なんてなかったし、湊上に出戻ってからも、ポン太という友人がいたから、別にお金を出して猫と戯れる必要はなかったのである。
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