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会社を辞められたのはいいけれど、必死に生きてきた2年ほどの期間がすべて否定された気がした。
その結果抜け殻となった私は、湊上の実家に戻ることになった。失業保険が切れるまでは、のんびりしなさいと母に言われている。
ということで、たっぷり8時間以上睡眠を取り、この地区で取れる魚介が並ぶ母の手料理を食べ、テレビやネットをあてもなく見たり海沿いを散歩して地域猫を愛でたりするという、健康的なニート生活がスタートしたのだった。
「今日何食べた?」
ポン太の傍らでしゃがみこみ、友人に話しかけるかのような親密な口調で尋ねる。ちなみにポン太という呼び名は、私が勝手に名付けたものだ。おなかの毛が少し長めでポンポンとしているから。
この名前について、当猫からは賛同は得られていないが、嫌がるような素振りを今まで見せなかったので、よしとしている。
『魚屋の早坂んとこの息子が、かつおのあらをくれたよ。なかなかおいしかったかな』
「へえ、そりゃラッキーだね」
『あいつんとこ行けば、だいたい何かくれるね。困ったら行くことにしてる』
と、薄目を開けながら私の方を見ずに”話す ”ポン太。
――私は猫の言っていることが分かる。聴覚が得るのは他の人と一緒で猫らしい「にゃーん」という鳴き声だが、それが頭の中で勝手に人語に変換されるのだ。
これだけ言うと、厨二病かな?とでも思われてしまうかもしれないが、本当なのだ。
猫は人間語は話せないけれど、人間の言葉を聞き取って理解できることも、私は知っている。
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