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背後から、そう叫ぶ声が聞こえてきた。慌てて振り返ると、必死そうな形相で駆け寄ってくる悠真くんのお父さんの姿があった。
私の傍らにいた悠真くんは、勢いよく立ち上がると、海の方に向かって走り、防波堤の先で止まる。
眠っていたところいきなり持ち上げられたポン太は、半眼で不機嫌そうな顔をして『ちょ、なんだよいきなり』なんて言っている。
「悠真! 何やってるんだ! 猫なんて連れ出して……! 早くお店に返しなさい!」
悠真くんの方に近寄りながら、彼のお父さんが剣呑とした表情で怒鳴る。相当ご立腹しているようだ。
悠真くんはお父さんの様子を見て一瞬びくりとしたようだった。ーーしかし。
「近寄らないで! それ以上こっち来たら、海に飛び込むからっ」
お父さんを真っ向から睨みつけ、とんでもないことを言い出した。
『え、それ、俺も一緒じゃないよね?』
悠真くんの腕の中のポン太が、戸惑った調子で言う。そしてもぞもぞと動き出した。まずい、どうやら脱出しようとしているらしい。
「ポン太! ちょっ、あの、にゅーる! それかかまぼこっ。あとであげるから、大人しくしててっ!」
せっかく見つけたというのに、どこかに脱走されては困る。私は咄嗟にそう言ってしまった。言ったあとに、「あ、猫と普通に喋っちゃった」と我に返ったが、内容的にギリギリセーフだと思うので安堵する。
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