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ポン太は少し不機嫌そうな顔をした後、動きを止めた。おやつに釣られてとどまってくれることを了承してくれたらしい。よかった。
ーーそんなことをしていると。
「ゆ、悠真⁉」
本気で飛び降りるとは思えなかったけれど、そう言われてしまえば不用意に近づくのは気が引けたようだった。悠真くんのお父さんは、私の傍らで足を止める。
「ポン太を飼いたいんだ。ねえ、いいでしょ父さん!」
「そ、それは。忙しいからダメだって言っただろう⁉ お前もまだ世話は難しいだろうし……」
「世話するもん! だから飼ってよっ」
「ダメだ!」
お父さんの中では、猫はもうどうしても飼えないものだと決定しているようだ。悲痛そうに懇願する悠真くんの要求を、受け入れる気配は微塵もない。
「……悠真、どうしたんだ。今までわがままなんて言ったことないじゃないか。何か欲しいものがあるなら、今度買いに行こう。だから、猫は諦めて戻ってきなさい」
宥めるような口調で悠真くんのお父さんが言った。彼の的はずれな言葉は、きっとまた悠真くんを傷つけただろう。
「違う……。そうじゃない……」
悠真くんが、絞り出すような声で言った。うつむき加減で表情はよく見えないが、唇をギリギリと噛み締めているように見える。
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