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彼は私を忌々しそうに睨んでいた。
「猫嫌いなんです。かわいがるんなら飼ってくださいよ」
つっけんどんに早口でそう言われて、虚を突かれる。しばしの間理解が追い付かず、返答できなかった。
「あ、いや、うちは飼えなくて。母が猫アレルギーで」
うっかり家庭の事情を漏らしつつもそう答えると、彼は私を睨みつける瞳に、さらに鋭さを込めた。
「どうにかしてください。猫が家の周りをうろうろしているだけでストレスが溜まるんです」
「どうにか?」
「飼い主を探すとか、保健所に連れていくとか、いろいろあるでしょ」
「保健、所」
あっさりと言うが、保健所がどんな場所か彼は知っているんだろうか。
親切な公的機関のような名前をしているが、猫を保護して一生涯面倒を見てくれる施設では決してない。
一定期間預かって貰い手がいなかったら、ガス室に入れられて、呼吸困難にされて、殺処分させられてしまう場所なのである。
幸い、ポン太は保健所が何の施設かを存じてはいないらしく、人間同士の会話に興味もないのか、目を閉じてかわいらしいお腹を規則正しく上下させていた。
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