ポン太

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 悠真くんは、瞳から涙を流しながら、苦しそうに顔を歪めた。内に込めていた、我慢していた物を、すべてさらけ出すような形相に見えた。 「寂しいっ! 寂しい寂しい! 寂しいっ……!」  絞り出すような魂のその絶叫は、海の彼方へと響いていった。少年の父は、呆然としたような表情になり、立ち尽くす。  悠真くんははあはあ、と荒く呼吸をして一度しゃくりあげた後、再び腹の底からの思いを叫ぶ。 「寂しいっ……。湊上に来てから! お父さん、仕事ばっかでっ。俺……寂しい! 寂しいっ! さび……」  我に返ったらしいお父さんが彼にやおら近づいていき、叫び続ける彼を抱きしめた。それによってようやく魂の咆哮が止まる。悠真くんの腕は力なく垂れ、その拍子にポン太はすとんと地面に着地した。 「悠真……」  お父さんは、目の端に皺を寄せるくらいに固く瞼を閉じ、掠れた声で愛息の名を呼んだ。そしてその口を固く引き結ぶ。歯でかみ締めているようにも見えた。  先程までの、猫を誘拐したことで悠真くんを咎めている様子とはまるで違う。ひどく痛ましいお父さんのその表情からは、自責や後悔ーーそんなものが表れているように見える。 「……悪かった。悠真……ごめんな。父親失格だ、俺は……」  静かに放たれた少年の父の言葉。お父さんは、さらけ出された悠真くんの本音によって、やっと自分がしていた仕打ちを理解したらしかった。  すると悠真くんは、声を上げて泣き出した。そんな彼を、お父さんは抱きしめ続ける。  私はその光景を涙ぐみながら眺めていたけれど、自分のすべきことを思い出して直ぐに行動に移した。 「こっちおいで」  悠真くんのまわりをうろついていたポン太にそう声をかける。今まで奇跡的に悠真くんの側にいてくれたけれど、本来猫は気まぐれな生き物のだ。外で放したら、いつどこに行ってしまうか分からないのである。
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