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「ですね」
その光景を見ながら、和やかな気持ちで私は言った。
*
誘拐事件から数日経った日のこと。ポン太をトライアルする準備が整ったということで、悠真くんとお父さんが猫又にやってきた。
「この度はありがとうございます」
悠真くんのお父さんが、ポン太が入ったキャリーバッグを持って、透魔さんに深くお辞儀をする。
この前はスーツを身にまとっていたけれど、本日はゆったりとしたパーカーにジーンズというカジュアルな格好。休日のお父さん、といった印象だ。
「いえ。ここは保護猫の里親を探すための施設ですから。お礼を言うのはこちらの方ですよ」
透魔さんがいつものように穏やかに笑う。本当にいつもこの表情だよなあ、この人。優しく穏やかだけど、やっぱりどこかミステリアスだ。
「そう言っていただけると嬉しいです。実は私、仕事を少しセーブすることにしたんです。仕事が好きで今までは自分に出来ることは全てやりたかったのですが、部下に任せられるところは任せることにしまして。悠真と過ごす時間を増やそうと思います」
「父さんと今度遊園地に行くんだ!」
元気そうに言う悠真くんは、心底嬉しそうに活き活きとした瞳を私に向けた。以前のどこか寂しそうな雰囲気は一切見受けられない。
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