ポン太

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 言葉の途中で、自分がとんでもないことを言っていることに気づいて、硬直する私。透魔さんは口元をにいっ、と笑みの形に歪めた。してやったり、というように。  冷や汗がわき出てきて、一瞬で体内温度が氷点下まで下がる。おいちょっと待て、今のは無し! 「やっぱり」 「ななな何がですかっ? きょきょきょ今日は寒いですね」 「今日の最高気温は28℃。6月としては記録的な暑さです」 「え、う、あ……」 「雨宮さん。あなたは猫の言葉が分かるのですね?」  恐ろしく強く美しい目力を武器に、透魔さんが私を追求する。確実に確信しているような、表情と口調だった。 「な、な、何言ってるんですかあ⁉ 漫画やアニメの見すぎですよお⁉」 「残念ながら、そういった類いのものはあまり興味がありませんねえ」  下手な私の誤魔化しは、にこにこと満面の笑みを浮かべた透魔さんに、冷静に返される。  まずい、これは本当に、絶対に確実に、百発百中バレている。恐らく言い逃れはできない。  猫又での、今までの私の様子を見て気づいたのだろうか。  そういえばポン太と「えっ、悠真くんがそんなことを言ってたの? ポン太もあの子のが気に入ってるって? へー、そうなんだー」なんて会話を、うっかり彼の前でしてしまったことがある気がする。
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