ポン太

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 この男性は、元々湊上地区の人間ではないのだろう。  漁業が盛んな地区では、漁師のおこぼれをいただけるため猫が住み着きやすい。湊上地区にも私の知っている限りでも数十の猫が縄張りを張っている。  また、この地区に昔から住んでいる人は、猫に対しては大らかだ。それは猫神様のお膝元だからかもしれないが。  この地区の中心部には(みなと)神社という、千年以上の歴史がある神社が鳥居を構えている。  そして、どんな経緯があってそうなったかは知らないが、猫が化身の神が祀られているのだ。  数年前の震災で、東北の太平洋沿岸は甚大な被害を受けた。しかしここ湊上地区は、津波による死者はゼロ、家屋の倒壊も1桁だったと聞く。  地区の沿岸に無人の離島が多数あり、それらが津波の被害を防いだのだと言われているが、猫神様のお陰だ、と神社に拝みに行く者も多数いるらしい。  そういうわけで、湊上地区の猫たちは、いわゆる地域猫と称され、地域みんなで世話をするという形になっていた。  ご飯の置き場所は決まっていて、当番が定められた時間に適切な量を置く。  ブロックや板で囲われた場所に砂を入れた、猫用トイレも様々な場所に設置されている。それの掃除も当番制で行われているらしい。  湊上地区の住民は猫を愛している。しかしこの男性はそうではないようだから、恐らく最近この地区に越してきた人なのだろう。  震災の後に、被害の少なかったこの地域に移住してきた者が多いのだ。飲食店やカフェなど、新たな店も数件オープンしたと聞く。
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