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ふむ。
国民全員が知っているというのならば、ムールカさんも当然知っていたのだろう。
薬師から王妃になれるチャンス。
ムールカさんがそう思っても不思議じゃない。
とはいえ、私はま────ったく興味はないけれども。
「コロール国の女性にとって、ご正妃様に、選ばれるのは最高の名誉!最高の誉!!…なんですよ!」
力説している受付男性には申し訳ないが、私の気持ちはテンションガタ落ちだ。
面倒なことに巻き込まれてしまった。
天涯孤独の身になった私をムールカさんが心配して玉の輿のチャンスに願いを込めた気持ちはわからなくはない。
だが、私は賢薬師としてこの国へ来たのだから、煩わしいことこの上ない。
鞄にしまった球体を取り出し、受付のテーブルにそっと置く。
「リリスさん?」
「申し訳ないですが、参加を辞退します」
「え?ええ??ええええ────!?!ありえないです!!ご正妃さまですよ!!この国の国母にもなれるチャンス!衣食住も全く困る事も無いんですよー!!!」
テーブルを叩き割る勢いで男性が身を乗り出してくる。
「私はついさっき国民登録したばかりの娘ですし、なんとかなりませんか?記載ミスがあって5時に間に合わなかったって」
「無理です無理です!!何もミスなんてありません!!」
「では、普通に辞退の処理をお願いします」
「それこそむーりーでーす──!!!!」
「なんでですか!ケチっ!!」
「ケチって…さっきも言いましたが、これは国民行事!国民登録した者が参加しなくてはいけない行事なんです!!参加するのが国民の義務なんです!!!」
「だから、それをなんとかしてっていってるでしょ!!…あ!じゃあさっきの国民登録取り消してください!」
負けじと受付のテーブルに身を乗り出すと──。
ブハッ!
真横で誰かの吹き出した声がする。
振り向くと、顔はなく男性の胸部分が見える。
ズズーっと目線を上に挙げて顔を見る。
うわぁ…。めっちゃイケメン!!
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