26. Eve

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自転車を押しながら 僕たちはしばらく無言で歩き続けた。 これまでは何か話してないと 間が持たない気がしていたのだが 今はこんな沈黙ですら心地よい。 「ねえ…」 「何?」 「今日はどこなの?」 「…ふっ」 「ちょっと!」 「ん?何?」 「ちょっと!聞いてるでしょ」 「うん、聞こえてる」 「もう!今日、いつもと方向違うんだけど、どこなの?」 「内緒」 「なんでよ」 「着いてからのお楽しみ」 「もう!なんでよ!」 浩子の表情を見て そろそろかな?と僕は切り出した。 「あのさ、覚えてる?」 「何を?」 「テストの時、対決したの」 「…もしかして?」 「そ!」 「バイキングのこと、覚えてくれてたの?」 「だよ、俺も行きたかったんだから、ほら、 そこのお店」 「…やったぁ!、やるじゃん!タカムラ!」 自転車を停めるや否や 浩子は突然、僕に腕を絡めてきた。 これまでプリントや消しゴムを手渡す時以外に 浩子に触れる機会はなかったので 不意をつかれた僕は思わず立ち止まった。 これまで浩子と親しく話すことはあっても こうした「接触」はなかった。 どう対処していいのかわからずに しばらくそのままの体勢で固まっていると 「早く行こうよ!」 そう浩子に促されて腕を引かれたことで ようやく我に返った。 教室を出る前から感じてはいたが やはり今日の浩子は いつもと比べてやたらとご機嫌だ。 ただその明るさの中に何か 底知れぬ刹那の儚さのようなモノと同時に 瞳の奥には何か決意にも似た思いを感じた。 無理してはしゃいでるのかな? そうも思ったがその理由は見い出せなかった。 こんな時は余計なことを考えすぎない方がいい。 そして僕も純粋に楽しめばいい、と言う 結論に至ったのだった。
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