26. Eve

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席についた僕たちは 会話もなく黙々と食べ続けていた。 気まずい雰囲気だった訳ではない、 二人とも昼食を抜いていた 極度の空腹 ただそれだけの理由だった。 「ねえ…」 最初に口を開いたのは浩子だった。 「なに?」 「アタシらってさ、周りからどう見られてるのかな?」 「よく食べる二人の男女」 「ふふっ、だよね、さっきから一言も話してないもん」 「空腹には勝てない」 「きっと異様な光景だろうね」 「そそ、何かに取り憑かれたかのように無言で…ぶっ!」 「あ、もう!吹き出したよ!汚いなぁ、もう!」 「…カップルには見えてないかな?」 「知らない」 「そこは『バカ!』じゃないんだ?」 「…バカ」 「出た」 「と、しても大食いカップル」 「だろうね」 僕たちが ようやくいつもの調子で話し始めたのは もうオーダーストップが 近づいてきた頃だった。 クリスマスイブにしては客足は少なめで 慌ただしく店を出る必要にかられなかったこともあってか ゆっくりと過ごすことができた。 「やっぱりフツーはもう少しお高いお店に行くんだろうな」 「ま、いいじゃない、アタシがそんなの気にしなくてよかったね」 「バイキングで喜んでくれてありがとう」 「タカムラと…あ、タカムラも喜んで食べてたじゃん」 「俺はね、浩子が食べてるとこ見てるのが…」 「かわいい?」 「いや、心配で」 「何でよ!」 思うに、この時は気づいていなかったが 僕たちは微妙に牽制し合いながら 「何か」を待っていた。
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