26. Eve

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そのことにはおそらく 二人とも気づいていた、のだろう。 あと一歩踏み出せない自分の優柔不断さは もどかしくありながらも そんなやり取りですら 実は少し楽しんでいたのかも知れない。 夜8時を過ぎると さすがに店内も混み合ってきたので そろそろ僕たちもお店を出ることにした。 「あ!」 「どした?」 「デザート、食べるの忘れてた」 「だからさっき聞いたのに『最後にケーキ食べなくていいの?』って」 「ねえ…」 「全てを察した…ケーキだろ?」 「さすが!」 「ま、クリスマスだもんね」 「行こう!早く」 「まだお腹、入るの?」 「甘いものなら」 「しょうがないな」 「うれしいくせに」 浩子は冗談のつもりで言ったのだろうが それは図星だった。 実は僕自身、まだ帰るのは名残惜しかった。 浩子が帰りたがらないのは ケーキを食べたかったからなのか もう少し一緒にいたかったからなのか 二人ここにいる理由なんてどうでもよかった。 この時間がもう少しだけ続けば… 僕はただそう願っていた。
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