27. ミルクティー

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「あ、こいつ!ミルクティー押しやがった!」 「へへーん」 「一生恨みます」 「どうぞご自由に」 浩子はおいしそうにミルクティーを口にした。 その時、ひとしきり喉の乾きを潤した浩子が 僕に向けて 「…はい」 飲みかけのミルクティーのペットボトルを 差し出した。 「いいよ、あげる」 「え、でも…」 「紅茶、キライなの?」 「え、そういう訳じゃ…」 「いいから…要らないならアタシが全部飲むよ」 「あ…」 「喉、乾いてんでしょ?」 「…じゃ、もらうよ」 これって…いいのだろうかと思いながらも 浩子が飲んでいたミルクティーを受け取った。 僕は一瞬浩子の表情を伺ったが 涼しい顔をして遠くを見ている。 「アタシの分、一口残しといてよね」 「え、う、うん、わかった」 心臓が飛び出しそうな思いで さっきまで浩子が飲んでいた ミルクティーを口にした。 「もう大丈夫?じゃ、返して」 「はいよ」 極めて平静を装っていたが その鼓動は 浩子に聞こえそうなくらい波打っていた。 「ありがと」 浩子は再び僕から受け取ったミルクティーを 全て飲み干した。 「はぁ~!飲んだ飲んだ!」 「酒豪女子か?」 「飲まなくても酔える派」 「酔ったら怖そう派」 「バカ!お酒は大人になってから」 「じゃ大人になったら飲みに行く?」 「やだよ」 「何で」 「介抱させられそう」 「飲まされそう」 「バカ!」 「バカです」 いつも以上にふざけた会話をしたのは お互い照れていたのかも知れない。 僕は敢えて「何で?」とは聞かなかった。 これは不器用な浩子なりの 気持ちの伝え方なのかも知れないと 後になって気づいた。 こんなお膳立てまでしてくれたのに それでも…それでも その一歩先へ踏み出す勇気が僕にはなかった 僕はとんだ臆病者だった。
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