29. 離脱

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冬休みに入っても我が校は補習があるため 僕たちは年末ギリギリまで学校に通っていた。 浩子とはクリスマスイブ以降も これまでと同じように 脈絡のない会話を続ける毎日だった。 「タカムラ…」 「何?」 「…鶏だよね」 「何だよいきなり?」 「好きだよね」 「昔、飼ってた」 「え、そうなの?…じゃなくてさ、食べるのが、だよ」 「鶏食べるとか表現リアルすぎるだろ」 「この前、唐揚げばっかり食べてたもん、あと照り焼きも、最後は卵かけご飯だったし」 「そりゃ好きだから食べるよ」 「飼ってたのに?」 「今は飼えないな」 「もしもアタシたちが食べられそうになったら…」 「誰にだよ?あと、アタシたち…って」 「どっち助ける?」 明らかに何かの謎かけだ、 ここで無神経に解答してしまうことは 今後の関わりに支障が出るのでは? 大げさかも知れないが それくらい重大に浩子の言葉を受け止めていた。 自分の中でこの問いかけを昇華できなければ 変に真面目に答えるより はぐらかした方が無難だろうと思った。 「オレはチキンだから逃げて見殺しにするかもね」 「おもしろくない」 「何だよ、聞いといて…うん、そうだなぁ…」 とりとめもない会話の途中 「ねえねえ浩子、ちょっと聞いて」 「え?何?美月」 「無視かーい!」 「あれ、どうしたの?」 隣で由里がニヤニヤしている。、 「あ、ゆり姉…田仲浩子に置いてけぼりにされました」 「ははは、楽しそうだね」 その刹那 由里は急に真剣な表情で僕を見てこう言った。 「…高村くん」 「何?」 「ありがとう」 「え?何かした俺?」 「浩子…やっと昔の浩子に戻った気がする」 「そうなんだ?え、前に何か…」 僕の言葉を遮るように由里は続けた。 「高村くんのおかげだよ」 「え?オレは何にも…」 確か全く同じフレーズを 僕の誕生日に美月からも聞かされた。 ただただ普通に浩子の隣の席に座って ごくごくありきたりな会話をしているだけの 僕が、 浩子を変えた? 昔の浩子に戻した? 僕の知らない頃の浩子に 一体、何があったのだろう? 過去の出来事を気にしないようにしていても 美月と由里の二人に同じことを言われると 気にせざるを得なくなる。
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