29. 離脱

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僕は由里に聞いてみた。 「前に何かあったの?浩子に?」 すると由里は人差し指を唇に当ててこう言った。 「今はまだ知らない方がいいよ、いつか浩子が 教えてくれるはずだから」 「ふーん、そうなんだ」 「気になる?」 「そりゃ、ね」 「好きなんだもんね?」    「え…って!何だよいきなり!」 続けざまに由里は小声でこう言った。 「告っちゃいなよ」 「こ、こ、こ…こく、告るって…ゆり姉、な、な、な、な、何言ってんだよ!」 「ぷぷぷ、動揺しすぎなんだけどー」 あまりの声の大きさに 二人で話していた浩子と美月が 驚いて振り返るほどだった。 「壊れたの?タカムラ?」 「ちょっとね…ごめん、私のせい」 由里は悪戯っぽく笑いながら その場を去っていった。 去り際に由里は僕の近くまで来てこう言った。 「浩子には高村くんから言ってあげた方が平和に収まるんだからね」 「え?」 「そろそろ気付いたら?」 由里はそう言うと 浩子と美月を交互に見て 意味ありげに目配せをしながら去って行った。 僕が言った方が平和に収まる? 鈍感な僕はその言葉の意味を いつになっても理解できないでいた。 もう僕はトモキの離脱のことなど どうでもよくなっていた。 ただ、テルや純也には いずれ僕から伝えることになるだろう。 もうトモキはこの輪の中には戻ってこない、 そんな気がしたからだ。
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