30. 悪い噂

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「また来年ね」 そんな浩子との会話で 今年最後の授業は終わった。 その帰り道でテルと純也に トモキの話をする格好の機会が訪れた。 僕の話を聞いたテルの口からは 意外な言葉が飛び出した。 「俺も薄々は感じてたんだよな」 「え?そうなんだ?」 純也が続けた。 「何て言うかさ、最近あまり俺たちと 関わらないようにしてる、って言うか」 「何が後ろめたいことがあるような、 おどおどした感じだよな」 やはり誰しもトモキの変化には 少なからず気づいていたようだ。 「俺には受験生だから、って言ってたけど」 「あいつ交遊関係は広そうだけど、 意外とガチの友達とかいないんじゃないか?」 「俺らにですら今は距離置いてる気がするもんな」 「とりあえずトモキにはお前の意思を尊重する、って伝えとくよ。また気が向いたらやりたくなるだろ」 「でも別のメンバーは探さなきゃな」 「ドラムが一時抜けるのは痛いな、しかし」 そんな風に言ってはみたものの 僕たちは何だかトモキとは これっきりになるような気がした。 浩子のことも含めトモキには 疑念を抱く部分が増えすぎてしまった。 そんな彼が好意を寄せている 僕の幼なじみである実優と もしも付き合うことになったら… 「え?コウ、知らなかったのか?」 「何を?」 「トモキのヤツ、澤木さんにフラれたんだよ」 「うそ、マジで?いつ?」 「どうもクリスマス前に告白して思い切り断られたらしい」 「もしかして、それであの時…」 「どうかしたのか?」 「いや、別に」 「で、お前はさ…」 「何だよ?」 「あの無表情な『鉄仮面女子』と…」 「誰だよ?鉄仮面て」 「田仲のことだよ、男子の間ではそう呼ばれてる」 「何でアイツさ、コウにだけあんな笑顔なんだ? 俺ら目が合うだけで睨まれるぜ」 「俺も最初は大変だったんだからな」 「プリント回す時、無視されてたもんな」 「見てたのか?」 「何かさ、男子に全員敵意持ってる、ってくらい怖いよな」 浩子のイメージって やっぱり男子の間ではそうなんだなと 改めて思った。 それなら僕と話す時に時折見せる あの屈託のない笑顔は何なんだろう? それを額面通り受け取っていいのだろうか? 色々知ったつもりになっていたが まだ僕の知らない浩子がいるのだろう。 そんな話をしながら下校する僕たちの前に 珍しい男が現れた。
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