31. 目前

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早いもので浩子と同じクラスになって あっという間に8ヶ月が過ぎ 新年になった。 初詣には美月と由里の二人を連れて来ると 前もって浩子から聞いていた。 由里にはヒロシがくっついてくるだろう バランスを考えてもう一人、僕は お正月を由美子と過ごせない祥二に声をかけた。 「誰でもいいよ、別に話すこともないだろうし」 浩子もそう言っていたことだし。 ちょうど祥二から 「あの噂」を聞かされた直後だった お調子者の祥二がいれば それなりに場も盛り上がって 不自然な空気にはならないだろうと言う 僕の考えもあった。 「あけましておめでとう」 当たり障りのない挨拶から始まり この珍しい組み合わせの6人で 近くの神社へ初詣に向かった。 「タカムラー!ちょっと荷物持ってよ」 「やだよ」 「あ、じゃ、あのことバラすから、由里、 タカムラはね、アタシのミルクティー・・・」 「あ!はい!持ちます持ちます、えーっと 浩子、肩は凝ってないかな?」 「素直でよろしい」 由里は堪えきれずに大笑いしていた。 「何っ?浩子の(しもべ)になったの?高村くん」 「完全に弱味を握られた…」 「お気の毒さま、ふふっ、楽しそう…ってか 私その話、知ってるけど」 「マジか…」 そんな僕たちの様子を見た祥二が こそこそと話しかけてくる。 「コウ…」 「何だよ?」 「田仲って、あんな顔で笑うのか?俺は初めて見た」 「『鉄仮面』はお前たちの前だけだよ」 「え?その呼び名、知ってるのか?」 「テルや純也から散々聞かされたよ」 「あいつら…コウの前では言うなってあれほど釘を刺しといたのに」 「いいよ、気にするな」 「ちょっと、タカムラ~!」 少し向こうから浩子の声が聞こえた。 「おや、姫様がお呼びだ、今日はまた一段とご機嫌だな」 「コウ…悪かったな、この前は。お前たちお似合いだよ」 「この先付き合ったら、の話だけどね」 「もう付き合ってるようなもんじゃないか。何事もなけりゃいいな、この後も」 それに越したことはない 祥二から聞かされたきな臭い噂も 遠い過去の話なんだろうと思えるくらい この日は平穏な時間が流れていた。
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