06. 融和揺籃

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今話した通り 僕と浩子はいつも大体似たような順位だった。 学年で20番前後、よくも悪くもない そんな当たり障りのないポジション。 「アタシなんてさ、やってもやらなくてもそんなもんだから」 「じゃあさ…」 「何?」 「対決する?」 「対決? テストで?」 「そう、今度の中間で順位が上にいた方が…」 「…あ、アタシ、バイキング食べに行きたい!奢ってよ、もしアタシが勝ったら」 意外な返答に僕は返す言葉を失ってしまった。 まさかそこまで話が進展するとは 思いもよらなかった。 「その代わり、田仲さんが負けたら…」 「じゃ負けないよ…あ、あと『田仲さん』は やめてくれない?」 「じゃ、何て呼べばいい?」 「別に呼び捨てでいいよ、『ひろこ』でも『コウコ』でも」 浩子は女子仲間からは名前の「ひろこ」を 音読みで文字って「コウコ」と呼ばれていた。 「じゃ俺は…?」 「タカムラ、でいいでしょ?」 「俺は名字かよ」 「タカムラだもん」 こんな会話がひとしきり続き 気がつけば 次の時間の始業のチャイムが鳴っていた。 休憩時間、席を立たずに浩子と話したのは おそらくこの日が初めてだった。 次の授業がどんな内容だったか 全く覚えていない 僕の心の中は 既に浩子とバイキングに行っていた。
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