07. 接近~アプローチ~

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席に着くと浩子は落ち着かない様子で 周りをキョロキョロ見回している。 「こう言うのってさ、慣れてないんだよね」 「こう言うお店に?それとも…」 「男子と来ることに、ね」 「ま、教室とそう変わらないんじゃ?」 「そんなことないよ…」 浩子は珍しく不安そうだった。 浩子だけではない 内心、僕も心臓が飛び出しそうだった。 女子と二人で出掛けるって こんな感覚でこんな気持ちなんだ、と この日初めて知った。 それでも僕が平静を装わなければ 誘っておいて何も話せない、では 浩子に対しても申し訳ない。 少しの間、不自然な沈黙が続いたが 窓側の席しか空いてなかったせいで 同じ学校の制服を見かける度に 二人でこそこそ隠れたりしていると いつしかそのぎこちなさも解消された。 そしてそれはそれで スリルがあって楽しかった。 狭いテーブルの下に二人しゃがんで身を隠している時 ふと浩子と目が合った。 「アタシたち何やってんだろね」 大人っぽい表情と不釣り合いな 時折覗かせるあどけない笑顔は これまでの浩子とは別人に見えた。
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