12. 約束

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美月の涙の意味を知る頃、 僕は誰とどのように関わっているのだろうか? と、ふと考えた。 「ごめんね」 「何か気になること言ってしまった?」 「ううん、違う。また…またね、話せる時が来たら話すね」 さっき優果が口にした言葉 「知ってても言わないこと」 きっとそんな話なんだろうと僕は思った。 二人の間に昔、何があったんだろう? 深く考えるのはやめよう、 まだ知らなくていいことだって 今の僕たちにはきっとあるはずだから。 「無理しなくていいよ」 「ありがとう」 何か別の話題に切り替えようと、思っても あまりにも急な出来事に頭が回らない。 「いつかライブ観に来て」 「うん、行くね、約束する」 「ありがとう」 「これは…約束、だからね」 そう言うと美月は 僕に向けて小指を差し出した。 「約束!…だよ」 「…うん」 何故か僕は 美月の言葉に抗うことができなかった。 言われるがままに僕も指を差し出し 二人の小指と小指が繋がった。 そして繋がった二つの小指を 美月はしばらく離そうとしなかった。 僕は急に意味もなく 浩子への背徳感のようなものに襲われた。 「だから」 その言葉が何を意味しているのか それを知るには僕はまだ恋愛に無知だった。 いや、無知と言うより僕は 美月の気持ちも、言葉の真意も そしてそこに隠された本当の意味も まだ何一つ理解していなかったのだろう。 男とは本当に 悲しいくらいに鈍感な生き物だ。
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