私→諭吉

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私→諭吉

拝啓、福沢諭吉様。 私はあなたが大嫌いです。 だっていつもいつも私はあなたへ片想い。 あなたは私のことを見てくれません。 私の側に一瞬いたかと思ったらすぐどこか他の女性のところに行ってしまいます。 女性はお洒落なもの、綺麗なものが大好き。みんなが羨ましがるような素敵なものは諭吉さんがいないと買えません。 諭吉さん、あなたは罪作りな男です。 「僕さえいればどんな物でも手に入るよ」 そう呟いて女性を誘惑します。 「デパコスの新色欲しいでしょ?」 「夏のワンピ、もうセールしてるよ?」 「旅行も行くなら豪華にしたいよね?」 着物姿で知的な表情を崩さないまま、私の耳元に吐息を吹きかける。 囁くように物欲を刺激するのはやめて。 物欲は情欲と似ている。とてもエロチック。依存性があって、良い物を手に入れるともっと良い物が欲しくなる無限地獄。 諭吉さん、あなたの甘言は赤ワインになる直前の葡萄のような危険な香りがします。でもその葡萄は手に入らない酸っぱい葡萄なの、結局は。私の理性が邪魔をするの。 本当は、後先なんて考えずに、諭吉さんの言いなりになって欲望に溺れてしまいたい。あなたがずっと私の側にいてくれれば世の中で怖いものなんてほとんど無くなるのに。 ああ、いくら私があなたに恋い焦がれても、 そう、いつも私の片想いばかり。 あなたはすぐ他の女性のところにふらふら。 旅立ってしまい、いつまでも帰って来ない。 もう不毛な片想いは終わりにします。 きっと諭吉さんはお疑いでしょう。 「さては渋沢栄一に乗り換える気か?」 違います。北里柴三郎に乗り換えます。 私は気がついたんです。 いつまでも若いつもりで物欲という名の情欲に溺れている暇はないんです。 老後資金を貯める決意を固めました。 老後資金は二千万、つまり二千諭吉必要だそうです。 毎月千円でも二千円でも北里柴三郎さんを大切に貯めて、来るべき老後に備えなきゃいけません。さようなら、諭吉さんと物欲。 煩悩全子より
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