世界の秘密―紫陽花の宝石―

3/3
前へ
/3ページ
次へ
   ■  家に帰ると、母は笑ってゆかりを迎えてくれた。 「風邪引くから、お風呂入っておいで」 「うん。ありがとう」  べったりと張りついた服をなんとか脱いで籠に入れて、体の奥だけが妙に熱っぽいのを感じながら、ゆかりはシャワーを浴びる。熱くなったシャワーに痛みすら感じることに、自分の体が思っているよりも冷えていたことを知った。  汚れを落として湯船に浸かる時も、手足の先が痺れて、それからゆっくりと、頭の中が緩んでいく。あの光景が、なんだか夢のように思えてきた。  両手でお湯を掬ってみる。まだあの宝石の砂の感触が残っている。  風呂からあがり、髪を乾かして、バスタオルを巻いた姿で台所へと向かう。晩御飯の支度をしているその背中に、ちょっと躊躇いつつ、声をかけた。 「お母さん」 「なあに? あ、ちゃんと服着ないと駄目だよ」 「世界の秘密?」  ゆかりが自信なくそうつぶやくと、母は少しだけ驚いた表情を見せて、それから微笑んだ。  片目をつむり、口元に人差し指を添えながら。            了    
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加