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家に帰ると、母は笑ってゆかりを迎えてくれた。
「風邪引くから、お風呂入っておいで」
「うん。ありがとう」
べったりと張りついた服をなんとか脱いで籠に入れて、体の奥だけが妙に熱っぽいのを感じながら、ゆかりはシャワーを浴びる。熱くなったシャワーに痛みすら感じることに、自分の体が思っているよりも冷えていたことを知った。
汚れを落として湯船に浸かる時も、手足の先が痺れて、それからゆっくりと、頭の中が緩んでいく。あの光景が、なんだか夢のように思えてきた。
両手でお湯を掬ってみる。まだあの宝石の砂の感触が残っている。
風呂からあがり、髪を乾かして、バスタオルを巻いた姿で台所へと向かう。晩御飯の支度をしているその背中に、ちょっと躊躇いつつ、声をかけた。
「お母さん」
「なあに? あ、ちゃんと服着ないと駄目だよ」
「世界の秘密?」
ゆかりが自信なくそうつぶやくと、母は少しだけ驚いた表情を見せて、それから微笑んだ。
片目をつむり、口元に人差し指を添えながら。
了
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