き・し・ん26 それぞれの…

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き・し・ん26 それぞれの…

長い爪は先に正義の肩を貫いた、 「きゃー」 舞の悲鳴。 かなりの出血で床が血に染まる。 「この野郎」 源が叫ぶと前に走り出した。 「やめろ」 正義が荒い息をしながら右肩を押さえる。 吹き飛ぶ源の体、左足が変な方向に曲がっている。血の気のない顔、瞳孔が開いてるのが正義に残酷な現実を突き付ける。 次の瞬間「邪鬼」は正義の目の前にいた。 異様な匂い、歪んだ目で正義の目を覗き込んだ。背筋が凍りその場から動けない。 「邪鬼」は右手を振り上げ正義の頭目掛けて振り下ろした。思わず舞は目をつぶった。 頭の中に血に染まった二人の死体が浮かぶ。 「ぎょりょぎゃやーーーー」 恐ろしい叫び声、ごとりと何かが床に落ちる。 「やめろーこの化け物ーー」 舞が泣きながら目を開けると、真っ黒い血が「邪鬼」の肘から吹き出している。 「よく耐えた、待たせたな舞」 黒い刀を振り下ろし真っ赤な目で琴がそこにいた。 素早く視線を源と正義に走らせ、刀を持たない左手を左右交互に振りながら琴の音を奏でる、何本もの糸が正義と源の体を包む。 「あ、あ、あーーーーーーーーー」 「.邪鬼」が動こうとし、その体を刃で床に貼り付けにした。 「我が力、この守りし二人に力を与え、魂に火を灯せ。そしてこの場から遠ざけよ」 それからの舞の記憶は所々抜けていた。 爆発音、真っ赤な炎、校庭に糸で包まれた級友達。源と正義が片膝を付き舞の両隣にいた。さらに大きな爆発の音がして、皆んなが教室の方を向いた。火だるまに包まれた二つの何かが空高く飛んで行くのが見え、舞の耳に琴の旋律が聞こえた。 あれから一月が経とうとしていた。あの日の事は三人以外は誰も覚えていなかった。 教室の爆発は理科室のガス漏れが原因として処理され、校庭に居た級友達はガスを吸って意識を失い校庭に倒れていて、奇跡的に全員無傷で助かったと。 風呂に入っていた正義は右肩に残る傷痕を、風呂上がりの源は左足の脹脛に残る傷痕を、舞は最近習い始めた琴を弾いていた。 だけど三人は知っている。命を賭して人を守った「鬼」の存在を、その「鬼」は誰よりも優しく、誰よりも強いことを。 三人の強い希望で、体育館の裏に小さいけれど立派な鳥居と社が建てられ、社の中に琴が奉納された。 「如月 琴」 またの名を 「鬼神」 と呼ばれた彼女のために。 風が吹いた その風の中に琴の旋律が聞こえ、三人が振り返ると美しい夕焼けが如月と四人で歩いた道を照らしていた。
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