うつり木 6

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うつり木 6

沙織は「木」の近くにいる三人を見ていた。 「またか」そう思い、空を仰ぐ。幼い頃から彼女には他人には見えない物が見えた。最初は訳が分からず「あそこにいる女の子は?あのおじさん何してるの?」と両親に話していたが、両親はやんわりとあまり他の人には言わない方が良いとさとしてくれた。 思春期に入りだんだんとその事は口に出すことをやめた。何人かの男子とも付き合ったが上手くいかなかった。その子の中にある禍々しい物が見えてしまい、デート中に何度か悲鳴を上げてしまったこともある。色白で黒神、瞳の力強さから自然と友達が周りに集まるが、何時も何処か違うところを見ていた。 ある日吉祥寺を歩いている時に不意に声をかけられ、「見えてますよね」と言われた。その場はフリーズしたが、声をかけた男の人は優しい目をしていた。そこからの会話はあまり良く覚えていないが、半地下になっている喫茶店で彼と話をした。彼も幼い時から見えること、祖父は「祓う」力を持っていて修練により今はそれができること。それから紺色の長袖のセーターの袖をまくり、右手に残る傷跡を見せてくれた。その傷跡は蛇が蛇行する様子を連想させた。彼は物静かに、だけど強い意志を込めた瞳で沙織にこう言った。 「僕達が見えている物の中には、強い邪気を持っている奴がいる。それは友達や親に時に悪い影響を与える。その時には祓う力が必要になる」祓う力には代償が伴うこと、それは時に身体に影響を及ぼし、傷になって現れたりもすると。 真夏なのに沙織は全身に怖気が走るのを感じた。彼の名は悟と言い、沙織より五つ年上だった。 沙織は何故その時にそう言ったのか未だに良く分からないのだが「教えて下さい、その祓う力の使い方」と悟の瞳を真っ直ぐに見て伝えた。悟は静かに、だけどしっかりと沙織の瞳の向こうを見る様な表情で深く頷いていた。
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