うつり木 8

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うつり木 8

丸川の体はアスファルトに叩きつけられた。 だが叩きつけられる瞬間アスファルトがへこんだ。 死んだ、瞬間丸川は覚悟したが、右腕と腰の激痛を意識して気を失った。 それと同時に沙織の体が重力を無視した様に真後ろに吹き飛んだ。 ドラッグストアに停めてある車に激突する、誰かが凄まじい力で沙織を背後から抱きしめ、車にぶつかる瞬間で止まった。 「助かった」そう沙織が言葉を振り絞った時「バカですか貴女は」聞き覚えのある声、驚いて振り向くと悟が冷たい目で見ていた。 「きゃー」女性の悲鳴、ドラッグストアの買い物客だろう、悟は「早く立ち去りましょう」そう言って、何事もなかったかの様に沙織の手を握りその場から歩き出した。 車に撥ねられた男性のことが気になったが、強く引く悟の手を見て我に帰る。 少し離れたファミレスでコーヒーとコーラを飲みながら二人は話していた。 力を使うと糖分を体が欲する。それは悟も同じでコーヒーにスティック砂糖を五つも入れていた。最初に悟が話し始めた。 「だから言ったでしょ、私があと少し着くのが遅れたら貴女は今ここにいませんよ」 「すいません」そう答えるのが精一杯だった。恐る恐る悟を見ると、厳しい目つきだが口角が上がり笑っていた。沙織は何時も関心する、彼のこの底知れない広さに。 それから鞄から古い書物を取り出した。 古書なのだろう、表紙の文字が掠れている。 それを察してか、悟が「忌地の伝え」と書いてあります。たぶん地に纏わる怖い話をまとめたのでしょう。中には胡散臭い話もありますが、ここを読んで下さい」 彼が開いたページには「交わりの呪い」と題目があり、掠れた字を拾いながら読み進めると、体が冷えていくのがわかった。 特に印象的だったのは、「閉じ込めとか、封印する」とかの単語だった。 「これは」震える声で悟に聞くと、「推測ですが、地の力みたいな物があり、そこに留まった良くない物がそこから離れられずに石や木に宿る。昔から祟り神と恐れられる言い伝えが各地に存在しますがあの場所もそれに該当するのかと」そう言い終わると、周りに気付かれない様に彼は口で何かの呪文を唱え沙織の頭に軽く触れた。その瞬間彼女の肩が軽くなった。「今あそこから付いてきた念を払いました、大した奴じゃいけどこれでハッキリした。あの木に付いている邪は一つではないことを」 その瞬間急風が吹き、ファミレスのハンバーグキャンペーンの立てのぼりが横倒しになった。慌てて店員がのぼりを駐車場の方に運んで行く。 まるでこれから起こる何かを暗示するのかの様に。
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