63人が本棚に入れています
本棚に追加
/170ページ
うつり木 10
丸川が目を覚ましたのはベッドの上だった。
一番初めに視界に入ったのは蛍光灯、首を横に動かそうとするが固定されてるために動かない。月上と佐藤が心配そうな顔をしてベッド脇のパイプ椅子に座っていた。
目を覚ました彼に気付き月上が「あっ生きてた」と言った。彼女らしい発言だが全身が動かないこの状況では口元を歪めるのが精一杯だった。佐藤は「大変だったな、先生が言うには助かったのは奇跡らしい」
そうだろう、あの瞬間丸川は「死」を意識したのだから。まさかそこに祓いの力が存在することは想像すら及ばないだろう。
悟と沙織は暫く無言でいた。いたたまれず沙織が「ごめんなさい」と誤った。
悟は静かに首を横に振る。「僕等の力に正解はない、だからこそ父は命を落としたし、沙織さんが飛んだ時に僕はそこにいた」
それから悟は真っ直ぐに沙織の目を見て言った。「あれはとても危険だと思う。僕はあれに近付いた時に傀儡と同じ様な嫌なものを感じた」沙織は凍った、そう表現するしかなかった。悟から全てを奪い去った呪いの呪物。それと同等の力を持つと言うのか。
悟は天を仰ぎ、「今回はあの人を頼らざるをえないかもしれない」
「あの人」
そう雨の降る晩に祓いの力を用いて事故を防いだ人物、名は「水川源」。
水と川の源、その名が何を意味するのか、後に沙織は知ることになる。
最初のコメントを投稿しよう!