うつり木 19

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うつり木 19

あれ、いや、「さち」はイラついていた。 この私に直接触れた不快な感触。初めてなので思わず叫んだが、今はぬらぬらと流れる「血」が止まるのをただ待っていた。 己が体に傷を付けるとは何様だ。今は怒りで根に感じる全ての人間をバラバラにしたい衝動を抑えるのが精一杯だ。 「さち」は攻撃の対象を絞り、それが感じる絶望や恐怖と共にそれの魂を喰らうのが至上の喜びだった。だが学んだのだ、己が力に拮抗する「力」が存在することを。 近くに悟や沙織がいたらその気味の悪い声を聞いただろう。「ひゃーひゃひゃひゃひゃ、いーひっひっひっ」背筋が凍り命の終わりを覚悟する絶望の「声」を。 「さち」は幹からダラダラと樹液を垂らしていた。獣が涎を垂らす様に。 あの三匹、嫌な匂いと気を発するあの三匹の魂を喰らいたい。さすれば強大な力を得る。その三匹の体を引きちぎり、絶望と恐怖で涙を流しながら許しを乞うその魂を喰らう瞬間を想像すると全身が喜びで震えた。 悟と沙織の携帯に緊急地震速報の音が流れ立てないほどに足元が揺れた。水川は地面から短刀を抜き、片手に握った数珠で天に拳を突き上げ「天の力においてここに結界を張る。邪を鎮め邪を清め」 稲光り、突然の豪雨。その雨は地に降り根に届く。「さ ち」に。
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