うつり木 20 志し

1/1

63人が本棚に入れています
本棚に追加
/170ページ

うつり木 20 志し

悟の携帯が鳴った、相手は沙織からだ。 静かに手に取り通話する。 「今の地震がとても嫌な感じがしたので」やはり彼女も感じたのか、「僕もそう思って念の為に鏡と刃物を用意した」邪が嫌うと言われる光る物。悟は視線を刃物に移した、それは持ち手に紋様が貼られていた。亡き父からの形見だ。幼い時に父と銭湯に行ったら周りの人達が驚いた表情をした後に避けた。体格の立派な父だったが、全身に刃物で切られた様な傷跡が幾つもあった。ある日悟は質問した、傷について。父は少し笑いながらこう言った「力には代償が伴うんだよ、悟にもそのうち分かるさ」今はそれが何を意味するのかが良く分かる、怪異と対峙した時生身の人間は何かしらの負荷を負う。いくら術を会得しても相手は一瞬で鋼鉄を引き裂く力を持つのだ。だが悟の父は怯むことなく怪異と対峙してはそれを消滅させてきた。悟は長袖をめくりそこに走る太い傷跡を眺めていた。 「もしもし」沙織の声で我にかえる。 「よく聞くんだ沙織さん、今から術を行う時の装備をして前の喫茶店で待ち合わせよう」 「わかりました、一時間後には行けると思います」あれは仕掛けてきたのだ、我々に。 時間があまりない、それから水川の自宅に電話を入れた。
/170ページ

最初のコメントを投稿しよう!

63人が本棚に入れています
本棚に追加