うつり木 23 接見

1/1

63人が本棚に入れています
本棚に追加
/170ページ

うつり木 23 接見

「さち」は苛ついていた。根がビリビリと痺れ感覚が鈍る。それが水川が貼った結界とは知らずに。念を込め放たれた雨水は地面に染み込み円を描く様に「さち」の回りを取り囲んだ。 ようかんを食べながら水川は「役割」と「祓う相手」に対してゆっくりとした口調で話し始めた。 自分達の住んでいる世界は東西南北の四つの入り口と出口があり、そこに土、水、風、音の柱が存在し邪気から私達生きる物全ての命を守ってくれている。ある者はそれを神と呼び、ある者は精霊と呼んだりする。だが実際は「澄んだ気」がそこに集まり大きな渦となって命の盾となっている。ところが最近は怪異が頻繁に起こり、選ばれし者の力が弱っている。人が俗に言う第六感がそれに当たるが便利な道具に頼り過ぎた結果、選ばれし者も力に気が付かずに一生を終える。だからこそ力に気が付いた者達は壮絶な戦いに身を投じる結果になってしまう。 そこまで話し、悟の顔を見て「君の父親は音の色がとても強く、口から発する言葉だけで小さな邪気ならば祓えた。だがあの傀儡との戦いで命を落とし、音の力が今とても弱っている」悟は何度も頷き耳を傾けている。 沙織は想像した、幼き時から絶大な力を持つ父親の存在。そして望んでもいないその力の継承。気が付いた時には戦いの中にいたのだ。あの化け物どもとの戦いの中に。 沙織は自然に涙を流していた。途中で気が付いた水川が慌てて沙織に声をかけ、怖がらせてしまったのかとしきりに恐縮した。 沙織は泣きながら悟の身を案じた事、年老いた水川の決死の覚悟、その渦中にいられる不思議な高揚感。それらが入り乱れ泣いたのだと。 水川と悟は目を合わせそして言った。 「さっきはごめんなさい、逃げれば言いなどと言ってしまい。ここに来た時から覚悟を決めていたんだね」 「さあ」水川が言った。祓いに行きましょうあの化け物を倒しに。
/170ページ

最初のコメントを投稿しよう!

63人が本棚に入れています
本棚に追加